58,嗚呼、働き者が征く。
まぁ、〈王〉が部外者であるおれたちに依頼するのは、筋は通っている。
黒幕によって、〈王〉は〈紫陽夢〉掃討に乗り出さなければならない状況に追いやられた。
そうしなければ、上層エリアの市民が納得しないだろう。
となると、陰で動けるおれたち『よそ者』こそが、切り札となる──。
──のかもしれんが、また命をかけるのか。
「やるか、スゥ?」
「もちろんだよ、リッちゃん! 破壊テロを行うなんて、断じて許せない! それに、まだガーディアン召喚函を使いきったとも限らないからね」
確かに。
そもそも、ガーディアン召喚函の出どころはどこだろう?
だいたい『守護者』を使って無差別に破壊工作を行うというのも、不可解といえば不可解。
手元に破壊工作に使えそうなのが、ガーディアン召喚函だけだったのかもしれないが。
なんで、そんなに大量に持っていたんだろう?──そして大量にあるのならば、まだまだ在庫がある恐れも。
「なら、急いで黒幕を突き止めるしかないな」
おれとスゥの会話を聞いていたマイリーが、呆れた様子で言う。
「バっカバカしい。黒幕なんてものがいるかどうかも分からないのに。仮にいたとしても、それはもうこの都市の問題でしょう。あんたが首を突っ込む必要はないのに、それでもやるわけ?」
スゥが、おれのために胸を張って言うのだ。
「もちろん! なぜならばリッちゃんは、お人よしだからだよっ! ね、リッちゃん?」
「………………いやそこはせめて、『リッちゃんは義侠心に満ち溢れているからだよ』とかにしとけよ」
マイリーは首を横に振って、
「付き合いきれないわ。あたしは、付き合わないわよ。あんたたちだけでやりなさい」
ここでマイリーという戦力がなくなるのは、かなりの痛手だな。
癪だが──バッファーであり、かつ単体でもスゥ並みのアタッカーなのだから。
働かねばならないのならば、仲間は多いにこしたことはないし。嗚呼、働き者なおれ。
「まてよ、マイリー。お前、師匠のために、おれが殺されないよう助太刀に来たんだろう? 〈四鴈〉の、アンガスとかいう奴から」
「そのつもりだったけど──仮にアンガスが動いているのなら、ここにもう到達いるはずなのよ。遅すぎるわ。誤った情報をつかまされたのかもしれない。その点を確かめに、いったんこのレグを出る、と言っているのよ」
「聖都まで戻るのか?」
「そこまで戻らなくても、連絡手段くらいあるわ。とにかく──あたしはここで、手を引く。あとは、あんたたち三人で頑張ることね」
そう言うなり、マイリーは本当に立ち去ってしまった。
「三人……あいつ、数も数えられなくなったか。あいつが抜けたことで、もうおれとスゥの二人だけじゃないか」
「………あの、わたしもいます。ごめんなさい!」
という声が、ふいに近くのテーブル下から聞こえた。
そして怯えた様子で、小柄な少女がはい出してくる。
「あ、エンマ! そうだよな! お前がいたよな! 最強のヒーラー!」
「……いいんです。忘れられることは嬉しいことですし。一瞬、このままテーブルの下で隠れていようかとも思ったのですが。わたしにも、少しは冒険者魂があります。ガーディアンの破壊工作を行った黒幕には、わたしも、怒りを覚えているんです」
「だよな。それこそが冒険者魂だ。といっても──黒幕の手がかりはゼロだが」
「はい。ただ、捜査は足で稼げ、ともいいますし。ここを出ませんか?」
引きこもりのエンマが、外に出たがっている。
何か伝えたい情報があるのかもしれない。
それは〈王〉やケイには聞かれたくない内容。
おれは〈王〉に目礼してから、スゥ、エンマを連れて、その建物を後にした。
しばらく路地を歩き、〈王〉の尾行者がいないことを確認する。
今回はちゃんと。
「エンマ。何か、話したいことがあるんだろ? もう大丈夫だ」
「はい……黒幕の手がかりは分かりません。ですが、何か情報を持っていそうな人の心当たりなら、あります」
「情報源か? 誰がいるんだ?」
ここでエンマも、なかなかの切り札を持っていたことを明かす。
「〈紫陽夢〉のリーダーです」
「それは……大物だな。どこに行けば、会えるんだ?」
「リクさんたちもお邪魔した、あの居酒屋ですよ」
あの居酒屋……ということは、ヴェンデルが、リーダーなのか。
「あー、なるほど」




