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57,犯行声明というやつは。

 


 各地からの情報を集め、ケイが報告してきた。

 あまり感情を表に出さない性格のようだが、このときは興奮を隠しきれずに。


「すべてのガーディアンが破壊された、とのことです! こんなこと、信じられません!」


 いやぁ。うまくいくような気はしたが──ここまでとは。

 さてはマイリー、幸運バフもかけているな。


 バーまで降りると、すでに状況を把握していた〈王〉が、ぱちぱちと拍手する。


「想像以上だ。君たち二人──いや、三人。冒険者とは、これほどのものなのか」


 マイリーが不愉快そう+面倒そうに片手を払う動作。


「あー、違うわよ。あたしは聖都のコア機関。このリクとは、同じ門弟というだけの話」


「同じ門弟……となると、この別格の成果を成し遂げることができたのは、その興味深い門派によるものが大きそうだ」


 まぁ、門派という大袈裟なものではないがね。


 師匠の弟子は、おれたち二人だけだし。

 デバフ付与もバフ付与も、いまや教えて会得させることができるものではない以上、さらなる後継者を作れるものでもない。

 そもそも、おれもマイリーも弟子を取る性格じゃない。おれはメンドクサイし、マイリーは──たぶん、地獄を見た弟子が速攻逃げるな。


「師匠も、おれとマイリーの協力プレイを知れば、喜ぶでしょう」


 と、当たり障りのないことを言っておく。

〈王〉はそれ以上、とくに詮索することもなく、再度、礼を言うだけだった。


 マイリーは腕組みして、


「構わないわよ、〈王〉。ただし、覚えておいてほしいわね。あなたの大事な高級市民を、誰が救ったのかを。『コア機関の〈四鴈〉が一人マイリー』よ。このことを、よーく覚えておくことね」


〈王〉は真面目な顔でうなずいた。


「ああ、もちろんだ。〈四鴈〉のマイリーどの」


 マイリーが満足そうなので、おれは指摘した。


「お前、はなから恩を売るつもりだったのか。通りすがりの正義の味方の精神はどうした?」


「そんな得にならない精神に用はないわ。それと、あんたにも貸付けたのよ、リク。いつか返済してもらうわよ」


 ふむ。この上層エリアの危機を救ったことで、マイリーは個人的に、〈王〉に貸しを作ることに成功したのか。つまり、現在の中立都市レグの統治者に。


 おれは報酬でいいや。

 現金、大事。


 ところが報酬の相談をする前に、ケイがある知らせを届けにきた。

 おれたちを信用したのか、または気にしている余裕もなかったのか、耳打ちすることはせず、とてもよく通る声で。


「閣下。〈紫陽夢〉より犯行声明が出ました。先ほどの『同時ガーディアン召喚』テロの犯行声明です。彼らは、中立都市レグの上層と下層、この格差の是正を求め、テロを行ったとしています」


 このタイミングでか。

 まぁ犯行声明だから、おかしくないが。


 スゥが、おれの耳もとで言った。


「リッちゃん、リッちゃん。王様なら陛下呼びじゃないの?」


 いや、だから本当の王様じゃないんだって。


 ケイが断固とした口調で言う。


「閣下。これ以上、〈紫陽夢〉を野放しにはできません。どうか粛清のご決断を」


 これは穏やかではないな。

 おれは控えめに挙手して、


「〈王〉。ひとつ発言しても構いませんか?」


〈王〉がうなずいたので、おれは言った。


「おれには、真の黒幕が〈紫陽夢〉に罪を着せたようにしか思えませんね。だいたい『同時ガーディアン召喚』テロとやらは、ほぼほぼ失敗したのに、わざわざ犯行声明を出すなんて。もしかすると、真の狙いは、〈王〉みずからに〈紫陽夢〉を潰させることにあるのかも」


「そうだろな。だが犯行声明は、我々のもとにこっそりと届いたわけではない。上層エリア全域に行きわたるよう、様々な手段を講じられたのだろう。そうだね、ケイ?」


「はい」とケイ。


 怠そうに〈王〉が立ち上がる。


「なら、俺も動かないわけにはいかないだろうな。みなが知ったのだ。そして、ほとんどの者は、君とは違う結論だろう。つまりシンプルに、犯行声明を信じ、犯人は〈紫陽夢〉と確信している。だから〈王〉としては、粛清に乗り出させねばならない」


 おれとしては、どうにも納得がいかない。


「黒幕が別にいるかもしれない。そのうえで、ですか?」


「それなら、君が黒幕を見つけ出してくれるか? 俺が、〈紫陽夢〉の間抜けどもを駆逐してしまう前に。そうすれば、〈紫陽夢〉については穏便に済ませられる」


 なぜ、おれはどこでもこき使われるんだ?

 そういう運命なのか?

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