55,デバフの雨を降らそう。
中立都市レグは、分かりやすい構造。
富裕層の上層エリアは都市の高みにある。よってさらに上層区画へと移動すれば、自然と周囲を見回せる。
その上で、最も高い建物が、〈王〉が入り浸っていた高級バーのある建物。
そこの最上階がバーだったので、そこまで駆け上がり、窓からレグの周囲を見回した。といっても、限りはあるが。
ただこの位置からでも、六体のガーディアンが暴れているのが確認できた。
しかもいくつかの属性に分かれており、おれたちが撃破した雷属性タイプ以外にも、氷属性、炎属性、土属性が見てとれた。
「まいったなぁ。これは被害が甚大だ」
中立都市レグも軍隊を保有しているが、都市内には常置していない。
そのため駆けつけるまでは時間がかかるようだ。
それにデゾンの冒険者ギルドのような制度もないしな。
一体の、新たな量産型ガーディアンが、空を飛んで視界に入る。
「あの個体、なんで飛翔できるんだ? あぁそうか。風属性タイプということか」
「リッちゃん。呑気に言っている場合じゃないよ。こっちに突っ込んでくるよ!」
スゥの言うとおり、その飛翔ガーディアンが、まっすぐこっちに飛んでくるではないか。
おれたちが狙いなのか?
だが違うらしい。
無人かと思ったバーの向こうから、酒瓶片手の〈王〉がひょいと現れる。
「〈王〉? あなた、こんなところで何しているんです?」
「もちろん、高級な酒の確保──と」
酒瓶をあおってから、〈王〉の手元にどこからともなく戦槍が飛んできた。
窓をぶちやぶって店内に突っ込んできたガーディアンへと飛びかかり、神速の突きを放つ。
ガーディアン:風式の頭部が吹き飛んだ。
ミスリルの頭部を一撃で破壊するとは。とんでもない威力の突きだな。
〈王〉は着地して、何事もないかのように先ほどの話をつづけた。
「敵の撃破だな」
「へぇ。〈王〉も伊達ではないらしいですね」
「さて。冒険者ギルドから派遣された君たちに、正式に救済を依頼しよう。どうか、憐れなレグを救ってくれ。むろん、恩は何倍にして返そう」
「こっちも『通りすがりの正義の味方』をやりたいのはやまやまなんですが──見たところ、まだ六体も暴れている。それに、これだけではないでしょう」
「いま、速報が届くところだ」
と、側近の一人が駆けこんできて、〈王〉の耳もとで何やら報告する。
〈王〉は一瞬顔をしかめたが、すぐに余裕のある笑みで、おれたちに言ってきた。
「ミスリル製の大型ゴーレムが、上層エリア各地で暴れているそうだ。その数は、24体」
「……訂正しますと、あれはガーディアンです。ついでにいうと、あれでも古神殿にいたタイプよりは小型。おそらく量産型というところでしょう。しかし24体とは多いな。撃破個数は?」
「二体だ。いま俺が破壊したものと、もう一体、どこかの有志によって破壊されたもの。頭部を破壊したうえに、凍結状態になっていたようだ」
「あ、それは我々です」
つまり、中立都市レグの戦力でガーディアンを破壊できたのは、〈王〉だけということか。
おれはマイリーに向き合った。
「手を貸せ、マイリー。本気の本気でいくしかない」
「ひとつあんたに貸しよ、リク」
マイリーにひとつ借りをつくるのか。なんとも大きな『負債』をこしらえることになりそうだ。
「……分かったよ」
おれは〈王〉に注文した。
「助けてほしいなら、協力してくださいよ。上層エリアのどこにガーディアンがいるのか、24体分、最新情報をもらいたい」
「承知した。彼女が送信石で、情報を集めている。ケイだ」
側近の、眼鏡をかけた小柄な女性がぺこりと頭をさげる。
「ケイです。情報官として、サポートさせていただきます」
「まず屋上に上がろう」
屋上から、レグの上層エリアを見回す。
ここからだと、より暴れている量産型ガーディアンを視認できる。
ケイが上層エリアのMAPを開き、各ガーディアンの現在位置に印をつけていく。
スゥが心配そうに問いかけてきた。
「リッちゃん、どうするの?」
「これからやるのは──一度だけ、マイリーと思考実験的に話し合ったことがある。ようは合体技だが──試したことはない」
「どうして?」
「おれたちの仲が悪いから」
「あー、すっごく納得」
「準備はいいか、マイリー?」
「あたしは、いつでもいいわよ。あんたこそ、ヘマするんじゃないわよ? 癪だけど、これはあたしがサポート、あんたが主役なのよ」
「分かってるって。師匠のように、うまくやろう」
スゥがまだ納得していない様子で尋ねる。
「結局、何をするの?」
「デバフの雨を降らす──いや、デバフの『イカヅチ』かな」




