48,〈王〉。
エンマが這うようにして、元引きこもり部屋に向かおうとする。
「やっぱり外は怖いじゃないですかぁぁぁぁあ!! ちょっと外に出ただけで、ハーフ・ディアブロの暗殺者に殺されかけるとか! もう世紀末じゃないですか、この世界はぁぁぁぁぁ!!」
エンマの右足をつかんで引き止めつつ、おれは説得した。
「いや、いまのは特殊なケースだから。滅多にないから」
ところがスゥが余計なことを、
「あ。だけどさっきの人、誤解が解けない以上は、何度も襲いにくるよね私たちを? わたしたちが、フライアを殺していないどころか、実は無事に逃がしたということ、味方だということを信じてもらわない限りは」
「やっぱり怖いじゃないですかぁぁぁぁ!!」とエンマ。
「あのな。ルテフニアが命を狙っているのは、おれとお前だろ。エンマは無関係なんだから、心配ない」
エンマが希望の眼差しを向けてくる。
「そ、そうですかね?」
そうだよ、と力強く肯定する前に、またもスゥが余計なことを言う。
「けどエンマさん。切断されたリッちゃんの右腕を、回復スキルで治したよね? これって、ルテフニア的には、エンマさんももうわたしたちの仲間──つまり、『命を狙う標的の仲間』だから、やっぱり命を狙われるんじゃ?」
とたんエンマが、希望もなにもないと、泣きだした。
「あぁぁ、わたしの人生、完全終了ですぅぅぅぅ!!」
「スゥ。お前はどっちの味方だ」
「あ、ごめん」
エンマを安心させるため説得するのは無理だろう。
そこで、あまり気乗りしないが脅迫作戦でいくとしよう。
「エンマさん。もういい加減にしろ。こっちは遊びできているんじゃないんだ。君だって、早く仕事を終わらせれば、それだけ早く引きこもり生活に戻れるんだぞ。というか、このまま駄々をこねていたら、おれたちは一生、ここに居座るぞ。そうしたら、おれたちを追って、さっきのハーフ・ディアブロの女が、殺戮しにきてしまうぞ?」
とたんエンマが泣き止み、絶望の顔のまま立ち上がる。
「…………分かりました。ですけど、わたし、土地勘ないのは本当ですから。ただこの都市の有力者と、仲介することはできます」
「有力者?」
「はい。便宜上、〈王〉の地位につく者。中立都市レグで、一番偉い人ですね」
大陸のすべてが都市国家になってから、王族というものは滅びたが。
最も上位の統治者に、地位名として王を冠するところは珍しくない。
「冒険者は、いうなればよそ者。よく仲介できるくらいのコネを作ったね」
「うんうん。引きこもりなのに、凄いね!」
と、悪気のない空気を読まない発言がたまにきずのスゥが、空気を読まない発言をした。
「おい、スゥ。引きこもりされている人に、引きこもり呼ばわりは、失礼だろ」
「え、そうなの? ごめんなさい」
エンマは周囲に怯えの眼差しを向けつつ、こちらはどうでもよさそうに言った。
「別に、そんなことは気にしないですけど……」
「それで、〈王〉とはどうして?」
「はぁ。以前、〈王〉の側近さんの傷を癒したことがあるんです。たぶん、わたしの回復スキル〈戯〉でなかったら、助からなかったんです。それで、〈王〉に会わせますから、あとは放っておいてくれます?」
聖都では評議会の一人とも会うことはなかったが。
今回は、いきなり〈王〉と謁見とは。
「じゃ、頼むよエンマさん」
「うぅぅぅぅ、外は怖いです、うぅぅぅぅぅ」
引きこもりのヒーラーほど宝の持ち腐れもないよな。
別にいいけど。




