表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/115

48,〈王〉。

 


 エンマが這うようにして、元引きこもり部屋に向かおうとする。


「やっぱり外は怖いじゃないですかぁぁぁぁあ!! ちょっと外に出ただけで、ハーフ・ディアブロの暗殺者に殺されかけるとか! もう世紀末じゃないですか、この世界はぁぁぁぁぁ!!」


 エンマの右足をつかんで引き止めつつ、おれは説得した。


「いや、いまのは特殊なケースだから。滅多にないから」


 ところがスゥが余計なことを、


「あ。だけどさっきの人、誤解が解けない以上は、何度も襲いにくるよね私たちを? わたしたちが、フライアを殺していないどころか、実は無事に逃がしたということ、味方だということを信じてもらわない限りは」


「やっぱり怖いじゃないですかぁぁぁぁ!!」とエンマ。


「あのな。ルテフニアが命を狙っているのは、おれとお前だろ。エンマは無関係なんだから、心配ない」


 エンマが希望の眼差しを向けてくる。


「そ、そうですかね?」


 そうだよ、と力強く肯定する前に、またもスゥが余計なことを言う。


「けどエンマさん。切断されたリッちゃんの右腕を、回復スキルで治したよね? これって、ルテフニア的には、エンマさんももうわたしたちの仲間──つまり、『命を狙う標的の仲間』だから、やっぱり命を狙われるんじゃ?」


 とたんエンマが、希望もなにもないと、泣きだした。


「あぁぁ、わたしの人生、完全終了ですぅぅぅぅ!!」


「スゥ。お前はどっちの味方だ」


「あ、ごめん」


 エンマを安心させるため説得するのは無理だろう。

 そこで、あまり気乗りしないが脅迫作戦でいくとしよう。


「エンマさん。もういい加減にしろ。こっちは遊びできているんじゃないんだ。君だって、早く仕事を終わらせれば、それだけ早く引きこもり生活に戻れるんだぞ。というか、このまま駄々をこねていたら、おれたちは一生、ここに居座るぞ。そうしたら、おれたちを追って、さっきのハーフ・ディアブロの女が、殺戮しにきてしまうぞ?」


 とたんエンマが泣き止み、絶望の顔のまま立ち上がる。


「…………分かりました。ですけど、わたし、土地勘ないのは本当ですから。ただこの都市の有力者と、仲介することはできます」


「有力者?」


「はい。便宜上、〈王〉の地位につく者。中立都市レグで、一番偉い人ですね」


 大陸のすべてが都市国家になってから、王族というものは滅びたが。

 最も上位の統治者に、地位名として王を冠するところは珍しくない。


「冒険者は、いうなればよそ者。よく仲介できるくらいのコネを作ったね」


「うんうん。引きこもりなのに、凄いね!」


 と、悪気のない空気を読まない発言がたまにきずのスゥが、空気を読まない発言をした。


「おい、スゥ。引きこもりされている人に、引きこもり呼ばわりは、失礼だろ」


「え、そうなの? ごめんなさい」


 エンマは周囲に怯えの眼差しを向けつつ、こちらはどうでもよさそうに言った。


「別に、そんなことは気にしないですけど……」


「それで、〈王〉とはどうして?」


「はぁ。以前、〈王〉の側近さんの傷を癒したことがあるんです。たぶん、わたしの回復スキル〈戯〉でなかったら、助からなかったんです。それで、〈王〉に会わせますから、あとは放っておいてくれます?」


 聖都では評議会の一人とも会うことはなかったが。

 今回は、いきなり〈王〉と謁見とは。


「じゃ、頼むよエンマさん」


「うぅぅぅぅ、外は怖いです、うぅぅぅぅぅ」


 引きこもりのヒーラーほど宝の持ち腐れもないよな。

 別にいいけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ