47,蛇の剣筋。
襲撃者の女は、ハーフ・ディアブロだった。
異種族ではあるが、凄く美人なディアブロさんだ。スタイルもよく、独特の色気がある。
「こらリッちゃん、雄の本能にかられている場合じゃないよ!」
確かに。
この美人ハーフ・ディアブロ、スゥの戦剣〈荒牙〉に常時かけている『デバフ発動準備』に抵抗した。
そうでなれば、スゥと斬り結んでいるとき、凍結状態になっていたはず。
いや、デバフ抵抗があったとしても、本体から直接受けるデバフ付与には抵抗できないはず。
ただここで問題となるのが、本体とはこのおれのことであり、まさしくおれ自身が、この美人ハーフ・ディアブロに接近せねばならない、ということなのだ。
いや、生きていられる気がしないんだが。
美人ハーフ・ディアブロは、剣身が捻じれたユニークな長剣を、おれたちに向ける。
「この程度か」
「まて、落ち着け。あんたの仲間のハーフ・ディアブロたちを殺しまくったのは、おれたちじゃないぞ。復讐するなら、聖都コア機関のマイリーという奴にしてくれ。いま、あいつの住所を書いてやるから」
「リッちゃん! 妹弟子さんを売る速度が速い!」
美人ハーフ・ディアブロが不愉快そうな顔をする。
「なんの話だ?」
「ガル渓谷の拠点にいたハーフ・ディアブロたちの仲間だろ? いいか。あそこで殺戮モードしていたのは、おれたちじゃない。おれとスゥは、正当防衛で、たった二体のウォーロックタイプを倒しただけで」
スゥがハッとした様子で、
「も、もしかしたら、あのウォーロックタイプのどっちかが、この人のお父さんだったのかも?」
「あぁ、そうなのか! これは殺されても仕方ない!」
しかし、どうも根本からして違ったらしい。
「貴様たちは、何か不愉快な誤解をしているようだ。愚かなガル渓谷の連中、つまり過激派どもと、私を一緒くたにするとは。私は、ハーフ・ディアブロと人類の共存を求める穏健派の一人だ」
過激派に、穏健派?
ハーフ・ディアブロも人間と同じで、さまざまな派閥があるらしい。
それはいいのだが。
「まて、まて。人類と共存する穏健派が、人間を殺すのか?」
美人ハーフ・ディアブロ(穏健派)が、愉悦の笑みを浮かべる。
「むろん、敵ならば殺す」
いや、この人、穏健派の顔じゃないんじゃない?
「ガル渓谷のハーフ・ディアブロが過激派で、あんたの味方じゃなかったんなら、どうしておれたちを殺す?」
「分かりきったことを。貴様たちが、神聖聖女を始末したからだ」
「神聖聖女? フライアのことか? いや、まった。始末って──おれたちが殺したと思ってるのか? それはとんだ誤解だぞ!」
もしかして遠くの都市に逃がしたフライアは、世間的には『死んだ』ことになっているのか?
ふと見ると、エンマが転がるようにして、離れていくのが見えた。
視線を戻したとき、一気に距離をつめてきた美人ハーフ・ディアブロの剣が、視界一杯になる。
え、一刀両断される流れ?
だがその前に、美人ハーフ・ディアブロの剣身を、スゥの戦剣〈荒牙〉が受けとめる。
「長話しているうちに、拾って戻ってきた!」
「よし、スゥ──お前ならできる!」
「戦う前に、名乗ったらどう?」
というスゥの要求に、意外なことに美人ハーフ・ディアブロは応じる。
「いいだろう。私の名はルテフニア。そしてこれが、貴様たちの首を狩り、神聖聖女の命を奪った罪を償わせる戦剣、その名も〈畜蛇〉だ」
だから殺してないってのに。フライアは無事だって。
二人の剣士が激突。
だが力量差はあきらか。
スゥが弱いのではなく、ルテフニアが強すぎる。
とくに蛇のようにくねる、不可解な軌道を描く〈畜蛇〉。
この剣筋を見極めるのに、スゥは苦労しているようだ。
ついにスゥが大きく隙を見せる。
ルテフニアは回り込み、とどめを刺そうとする。
「これで終わりだ!」
「いや、それは困る──」
とどめを刺すタイミングで、ルテフニアの動きが止まった。
一瞬でも動きを止めてくれれば──背後に回り込んでいた、こっちの手が届くところで。
ルテフニア自身に触れることはできなくとも、戦剣〈畜蛇〉の切っ先に、指先でも触れることができれば。
装備した剣を経由して、第七の型【ビリビリしているのだね】を付与。
デバフ効果は、持続ダメージ系の感電状態を付与する。
「ぐぁぁぁぁ!!」
全身を感電状態が襲ったルテフニアが、跳躍して、建物の向こうへと消えていった。
「撤退してくれたのか。良かった」
「なにも、良く、ありませんよぉぉぉ!!!」
と路地の片隅で丸くなったエンマが抗議してきた。




