42,ブラック・ギルド。
「それは大変ご苦労だったね。ところで、聖都グルガの名物ホットドッグは食べてきたかい?」
というのが、おれとスゥの報告を聞いたのちの、ギルマスの発言。
故郷の都市デゾンに戻ったおれたちは、その足で冒険者ギルド本部に向かい、今回のクエストの顛末を話したわけだ。
「あー、拝啓ギルドマスター。おれたちにそんな余裕があったとでも? こっちは、とにかくピンチの連続。いま思い返しても、よく生きていたものだ」
となりでスゥが腕組みして、うんうんとうなずいている。
「けどさ、ピンチのほとんどは、リッちゃんの妹弟子さんが原因だったけどね。というか、妹弟子さん以外には、とくにピンチはなかったよね」
「なに言っているんだ。ハーフ・ディアブロの魔術師やら、太古の魔導兵器ガーディアンとの死闘を忘れたのか? お前を脱獄させたりもしたよな。……まぁ確かに、最も死にかけたのは、マイリー関連ではあったが」
ギルマスのディーンは呑気にコーヒーを飲みながら、一考している。
いまさら気づいたが、この人がまともに仕事をしているのを見たことがないな。あーーー。だから師匠と気があうのか。『若いもの』に仕事を押し付ける思考がそっくりじゃないか。。
で、ディーンが口を開いた。
「マイリーさんか。興味深いね。リク。エレノラは、君を僕のもとに寄越し、マイリーさんを聖都に帰した。つまりエレノラは、君こそが世界を救う逸材と信じ、託したんだろう」
「どうですかね。単純に、デゾンがおれの地元だった、というだけのことでしょう。それよりギルドマスター。グウェンはどういうつもりで、うちのスゥに〈封魔〉を移譲したりしたんですか」
「ああ、そのことだが。君たちが帰還するより少し前に、貴重な送信石を使い、聖都のコア機関より連絡が入ってね。コア機関〈四鴈〉のレアンナさんというかただが」
〈四鴈〉ということは、マイリーの同僚か。
「その人とは、会ってないですね。で、コア機関はなにを知らせに?」
「ああ、グウェンが殺害され、死体で発見された、ということだ」
「え、グウェンが殺された?!」
二つの意味で驚いた。
まず、知り合いが殺されてしまった、という事実に。
さらに、あのグウェンが、そう容易く殺されるイメージが湧かなかったため。
ところがこの話、もっと驚きを隠していたわけだ。
「ああ、そうだ。だがね、安心してくれ──という言い方が適切かは分からないが。君たちが知っているグウェンは、いまも無事だ」
「はぁ……すみません。理解不能なんですが?」
それからディーンによって語られたのは、なかなかどうしてトンでもない話。
おれとスゥが、『冒険者出張所のグウェン』として会っていた相手は、なんと偽者だったという。
そして本物のグウェンを殺した第一容疑者は、この偽グウェンなのだとか。
「本当なんですか?」
ディーンはうなずいて、
「ああ。偽グウェンは異空間系統のスキルを使えるようだ、ということだね。本物のグウェンの殺害法が独特なんだが、異空間スキルの攻撃なら納得がいく」
「……それでグウェンは──おれとスゥにとっては、たとえ偽者でも『グウェン』なんですけど。彼女の正体は、判明しているんですか?」
「正体を、コア機関はつかんでいないという。これが真実か、またはわれわれには隠しているだけかは、分からないが。とにかく君たちは偽のグウェンの誘導のもと、古神殿〈風建〉のガーディアンを撃破。そして女神より伝わる〈封魔〉スキルを、第52代神聖聖女フライアから、スゥくんに移譲した」
「なんだか途方もない陰謀に巻き込まれたような気がしてきました。で、ギルドマスター。スゥから、〈封魔〉スキルを取り出せるんですか?」
古神殿〈風建〉に戻れば取り出せる気もしたが。
そうしなかったのは、〈封魔〉スキルを無事に取り出せても、誰に託せばいいのか、いよいよ分からなくなってきたからだ。
思うに、聖都の評議会に渡すのも、なんか違う気がしているし。
だから、問題は多いがとりあえず信頼はできるギルドマスターに、こうして相談してから決めることにした。
で、そのギルマスが言うわけだ。
「取り出す? なぜだい? スゥ君が〈封魔〉スキルを使い、アーゾ大陸から魔物たちを追い払えば済む」
「は?」
スゥが、拳をかためて決意の顔。
「わたし、運命の子だったんだね!」
「なに、その気になっているんだ、お前は」
ディーンは柔和に笑い、
「しかし、そのためには〈封魔〉スキルの練度を上げねばならない。その訓練もかねて、次の派遣クエストだが──」
え、まって。
また仕事なのか? しかもまた派遣されるの?
ここ、ブラックギルドじゃないか!!




