41,なにはともあれ。
古神殿〈風建〉を後にする。
聖都の近くにある街道で、おれたちは立ち止まった。
レオナルドが熱意をこめて感謝を示してくる。
「リク、スゥさん。ありがとう。二人のおかげで、姉さんを助けることができた」
あらたまって感謝されると、小恥ずかしいものだな。
「いや、いいんだ。自分たちでやりたいようにやっただけだし。な、スゥ」
スゥがこくこくとうなずく。
「そう、そう」
「で、お前たち姉弟はどうするんだ? 念のため言っておくが、聖都には戻らないほうが無難だぞ」
レオナルドはうなずき、厳しい顔つきになる。これから先のことを考えれば、そういう表情になってしまうよな。
「分かっている。僕と姉さんは、聖都を離れるつもりだ。まだ行先は決めてないが」
「ならデゾンに来るといい」
「ありがとう。だけど、やめておくよ。デゾンと聖都は同盟関係にある。そして僕と姉さんは、聖都評議会から指名手配されるだろう」
「そうか。デゾンは聖都と、犯罪人引渡なんたらの条約を結んでいるだろうからな。そうだな。もっと遠くの都市へ行くといい。聖都とは同盟も貿易も結んでいないような」
「ああ、そうさせてもらうよ」
フライアがやってきて、おれとスゥの手を握った。
「迷惑をかけてしまって、ごめんなさい。いつかきっと心から感謝できると思う。それまでは、ごめんなさいとだけ、言わせて。また縁があったら会いましょう」
「ああ──そうだ、レオナルド。〈封魔〉を移譲した石板は、聖都の評議会とやらに送っておく。きっと次の神聖聖女を、連中が決めてくれるだろう」
「何から何まで感謝する。落ち着き先が決まったら、迷惑でなかったら手紙を送らせてくれ。もしも、僕の手を借りたいことがあったら、いつでも言ってほしい」
そうしてレオナルドとフライアを見送った。
それから、おれは石板を投げ捨てる。
実際に〈封魔〉が移譲されたのは、この石板ではなく、スゥの肉体だしな。
「リッちゃん。本当のこと、レオナルドさんたちには話さなかったんだね」
「ああ。責任を感じそうだからな。まさか、お前が──次の神聖聖女になるとは」
「わたし、そんなものになるつもりはないんだけど」
「ならなくてもいいけど。〈封魔〉スキルを移譲させられてしまったんだから。えーと。とりあえず、魔物を追い払えるか試してみたらどうだ。デゾンに帰る道すがら」
「うーん。なんで、わたしが……」
「グウェンがどういう考えだったのか知らないが。いまから追いかけて聖都に行くのは、ごめんだしな。あそこにはマイリーがいるし。だから早くデゾンに戻り、ギルマスに文句を言ってやろう。何か、解決策を提示してくれるかもしれないし」
「賛成! よし、帰ろう!」
──マイリーの視点──
まさか戻ってくるなんてね。
聖都の冒険者出張所の拠点。表向きは雑貨店で、あたしは身をひそめていた。
聖都の門衛から、グウェンの偽物が戻ってきたと報告があったから。
そして、まさか本当にのこのこと戻ってくるなんて。
まだ本物の死体は見つかってないと思い込んでいるのかしら。または、捕まらない自信でも?
本物の死因からして、偽物のグウェンはスキル持ち。そのスキルはきっと異空間操作系でしょう。
ただどんなスキルでも関係ないわ。
対スキル・バリアのバフをかけておけば。
そして素早く跳び出し、背後からグウェンの頸へと刀をつきつける。
ぱたりと偽グウェンが立ち止まる。
「あんた、本物のグウェンに成りすましているようね。それで、正体はどこの誰なのかしら?」
ゆっくりと偽グウェンがこちらを向いた。
「おや。コア機関は問答無用だと聞いていたけど、いきなり斬り捨てないなんて、意外と寛大な機関なのかな?」
「バカね。尋問するためには、生きていてくれなきゃ困るでしょ」
奇妙な笑みを浮かべる偽グウェン。
「バッファーじゃ、アタシには勝てないよ」
「そう、なら試してみる?」
「ううん、やめておく。アタシは命が大事だからね。そもそも、アタシが戻ってきたのは、キミに伝えたいことがあったからだよ、マイリー」
「伝えたいこと? 一体、なにを?」
「バフよりデバフのほうが強いでしょ」
つい唖然としかけた。まさか、そんな下らないことを言うために?
どうでもいいけれど、それは間違い。
バフのほうが優れているに決まっているし。
「あんた。そんなことを、わざわざ言いたかったの?」
何かの煙幕でしょう。
さすがに、別の目的があったはず。それが何なのか──尋問すれば分かること。
ところが、
グウェンの偽者はくすくすと笑ってから、
「アタシは性格が悪いから──じゃ、ばいばい!」
刹那。
偽グウェンの姿が消える。
異空間系スキルによる空間転移──
あたしは危険がないことを確認してから、刀を鞘におさめた。
「やっぱり、まずはじめに首を斬り落とすべきよね」




