40,移譲完了。
グウェンの説明では、ガーディアンを撃破したことで、この古神殿の『管理者権限』を会得したのだとか。
「おれたちが?」
「厳密には、ガーディアンを明確に破壊した人が」
「じゃ、スゥ。お前だな」
「え、そう? えへへ、そうなんだぁ~」
と、なぜか照れ笑いするスゥ。
「えーと。グウェンさん。それで、わたしはどうすればいいの?」
「そこの石板をはめたところに行って。そうそう。そこに管理者権限を持つ者だけがアクセスできる魔端末がある。魔端末というのは──そうそう、それのこと」
グウェンの指示のもと、スゥがおろおろしながら作業を進める。
レオナルドが固唾をのんで見守っている。
少し離れたところで、フライアがどうでもよさそうにしてやはり見守っていた。
おれはそちらに歩を運んで。
「あんたの弟は、とても心配していたんだ」
「分かってる。レオナルドには申し訳ないことをしたと思っている。だけど、人類の罪は事実。わたしたちの先祖は、ハーフ・ディアブロを駆逐してしまった」
どうもフライアには確信があるらしい。
親の罪は子に、というが。
さすがに何十世代も前の、先祖の罪まで償いたくはないね。おれは。
「……フライアさん。あんたは極端なんだよ。いまさらハーフ・ディアブロにすべてを返すことはできない。だが、もしかしたら共存はできるかも。その橋渡し役に、あんたがなることもできる」
フライアが奇妙な眼差しを向けてくる。
「人類とハーフ・ディアブロの共存? そんなことが可能だと思う?」
「……あんまり思わない」
だからといって、殺しあうことはないと思うが。
おれは争いは好まない性格だし。
「神聖聖女さん。こっちに来て」
と、魔端末のところから、グウェンが手招きする。
少しは慣れた様子で、スゥが魔端末を操作していた。
フライアと一緒に、おれも近づく。
レオナルドは少し距離を取って、緊張の様子。
グウェンが、魔端末からツタのようなものを引っ張り出す。
「このマジック・ワイヤを人体に接続するよ。あ、大丈夫。少し痛いだけ」
マジック・ワイヤというものを近づけると、いきなり生き物のように動き、フライアの皮膚の下にもぐりこんだ。
フライアが悲鳴を上げる。
おれは非難の眼差しを、グウエンに向けて。
「少し、痛いだって?」
「うーん。かなり痛かったみたいだね。ま、死なないから大丈夫でしょ」
大丈夫の基準が緩いな。
ふいにマジック・ワイヤの接続が解除され、皮膚下から抜ける。
よろめいたフライアを、駆けつけたレオナルドが抱きかかえた。
「姉さん、大丈夫か!」
グウェンは満足そうにうなずく。
「これで〈封魔〉スキルは、この石板内にひとまず移譲されたよ。あとはこの石板で、次なる神聖聖女に〈封魔〉スキルを移譲するだけ」
そう言ってグウェンが、はめこまれていた石板を取り外す。
この石板、ただの起動キーだけでなく、〈封魔〉スキルの移し先にもなったのか。
おれは、グウェンが右手に持つ石板を見据えた。
それから片手を差し出す。
「グウェン。その石板、おれが預かっておこうか」
「キミが? そうだね。預かってもらおうか」
グウェンはなんら抵抗を示すこともなく、石板をおれに渡した。
「……どうも」
「いえ、いえ。じゃ、アタシは先に聖都に戻っているね」
使命を終えたとばかり、グウェンが軽やかな足取りで去っていく。
その後ろ姿を見送ってから、どうやらおれの考えすぎだったようだ、と反省した。
ふと見ると、スゥが、自分の顔の前で手を払っている。
なんとなく、飛んでいる虫を払うような仕草。ただしここに虫はいない。
「なにしているんだ、お前?」
「ねぇ、リッちゃん。さっきから、変なのが見えるんだよね。なんなんだろ、これ?」
「幻覚でも見えているのか? さっきの戦いで、お前、頭でも打ったのか?」
少し心配になったが、スゥは首を横に振った。
「頭を打ってはいないけどさ。この視界にうつるものは、なんだろう。あ、消えた」
「消えた? そももそ、お前だけ見えていたのか? 一体、何を?」
「メッセージ」
「メッセージ?」
「『管理者さまに〈封魔〉スキルの移譲が完了しました』ってさ」
「……」




