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4,計略、だと?

 


 冒険者ギルドの本部に向かう。


 ギルド本部は、石造りの要塞風。地下には、何百人も収容できる避難所。食糧備蓄などもされている。

 仮にデゾン都市内まで侵略された場合、ここが最後の護りの地となるわけだ。


 本部内で顔見知りを探そうとしたが、スゥしか知らないことに思い至った。

 あれ。おれ、同僚にはぶられている?


「やっぱり飲み会とか、怠くてサボると、仲間外れにされるんだなぁ」


 おれが地味に落ち込むと、スゥが肩をぽんと叩いてきて。にっこりと微笑んだ。


「リッちゃんには、わたしがいるじゃない」


「スゥ! おれたち結婚するか?」


「うーん、まだしない」


「あっそう」


 いつかするのかな。


 スゥは不可解そうな顔で、周囲を見回した。


「にしても、今日は人が少ないね。みんな、出払っているのかな? あ、知り合いの受付さんがいた。ちょっと話を聞いてくるね」


「ついでに、ギルマスに面会できるかも聞いてくれ」


 確かに、本部内には人がいないようだ。

 まぁ、おれも滅多に本部に足を運んでいたわけではないが、もう少し賑わっていたはず。そもそも緊急クエストに備えるため、最低限の人員は確保されているはず。


「それがいないということは──何か、大がかりなクエストが発生しているのか?」


 デゾンの戦力は、冒険者ギルド以外にも、都市警備軍がある。

 ただ戦力の偏りは冒険者にあり、都市警備軍は『農民が槍を持った』程度のレベル。


 というより、実際に半数以上は農民の兼業で、職業軍人はほとんどいない。というか職業軍人として食っていける力量があるなら、冒険者になる、というわけだ。


 スゥが難しい表情で戻ってきた。


「うーん。リッちゃん。なんか、戦争らしいよ」


「なに、戦争? どこの都市が攻めてきた!?」


 都市国家間の戦争なんて、百年は起きていないはずだぞ?


「あ、ごめん。戦争って、そういうことじゃなくて。ここのところ、ゴブリンたちが活発に動いていたのは、知っているよね?」


「あー、知らん」


〈暗闇荒地〉で、師匠の肩を揉むのに忙しくて。

 あの人、何もしていないのに、肩はよく凝るんだよな。


「とにかく、今までだって、ゴブリンたちは悩みの種ではあったよね。だけどここ数か月、ゴブリンたちの襲撃ペースが増えているわけ」


 都市デゾンは、この都市を中心に、政治的に独立し、この周辺地域を支配している。


 周辺にあるのは、農村がほとんどだが。それらの農村がゴブリンたちの標的というわけだ。または他都市からの旅商もだが。


 さすがにデゾン内にいれば、安心。この都市内までゴブリンは攻め込むことはできない。というか、ゴブリンごときに守りを突破されるような都市だったら、もうとっくに滅んでいるが。


「で?」


「うん。ゴブリンの襲撃が活発になっているだけでなく、なんだか統制が取れているんだよね。そこでギルドは、ゴブリンたちの指導者がいるのではないか、という仮説を立てた」


「あ、知ってる。ホブゴブリンだろ」


「ぶーぶー。外れ。ホブゴブリンはただの戦闘力が高いだけのゴブリン。ゴブリンたちの統制を取るほどの頭脳はないよ。ゴブリンの指導者の正体は不明だけども、とにかくゴブリンは数だけは多いからね。これが指揮系統とられて攻めてきたら、ギルドも手を焼く」


「だろうな。で、指導者の正体はつかめたのか?」


「ううん。それどころか、ゴブリンたちも隠れるのが上手くなってね。市民を襲撃するときだけは姿を現すんだけど、それ以外はどこに潜伏しているのか分からないんだよ。これも指導者が現れたせい、なんだろうね」


「ほう」


「それが昨夜、ゴブリンたちがある地点に集結している、という報告があったの。デゾン都市から南南西10キロの森林内に。その数は500体以上だって。きっとデゾン都市に一斉に攻め込むつもりなんだね。だけどまだ準備は整っていないみたい。だから冒険者ギルドは、先手を打つことにしたんだ」


「それで、戦争か。冒険者たち総出で、ゴブリンの集結地点に向かったのか。つまり冒険者軍で、ゴブリンたちが準備が整う前に奇襲を仕掛け、殲滅するために」


「そ。わたしもいまから急げば、間に合うかもね」


「…………」


「どうしたの、リッちゃん」


 いま、すごーく、嫌な想像がよぎった。


「なぁ。ゴブリンの指導者は、ゴブリンたちに潜伏場所とか用意していたんだよな。冒険者たちの目を欺いてきたんだろ? ところが、デゾンに総攻撃するためだからって、不用意に集結しすぎじゃないか?」


「うーん。言われてみると」


「それにデゾンから10キロ地点というのも、なんか絶妙だよな。奇襲仕掛けやすいけど、デゾンを出払ったら、戻ってくるのに時間がかる、という」


「え? つまり、これはゴブリン側の陽動ということ? 冒険者軍をデゾンから出すために? デゾン都市内の冒険者戦力をなくし、その隙に都市内部を襲撃するために??」


「いや、だけど杞憂かもしれないな。ほら、ギルマスは切れ者と聞いたことがある。そのギルマスが、この奇襲作戦の指揮しているんだろ。ならゴブリンたちの罠ではない、という確信があるんだろう」


「あ。そうそうギルマスは、先週から都市国家会議に出席するため、デゾンを留守にしているよ。副ギルマスも病気で現場に出られない。だからいま冒険者全軍を指揮しているのは、ナンバー3の人」


「……どんな人?」


「ひとことで言うと、脳筋、かな。あっ」


 ヤバい事態に気付いた様子で、スゥの顔が青ざめる。

 おれは潔く諦めた。


「デゾン終わった」


「リッちゃん、そんなこと言わないで! というか、諦めるの、早すぎ!!」



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