38,デバフの真骨頂。
全長50メートル級のゴーレム。
ゴーレムといっても、『泥人形』じゃないんだよな。このガーディアンの材質は、土くれなんかじゃない。
金属生命体。
白銀の輝きがところどころで渦巻いている。
「魔法金属じゃないか、あれ? ミスリル製のゴーレム? いやぁ、これは無理ゲーじゃないか」
魔法金属ミスリルでできた巨人を倒せるイメージが湧かない。
それを後押しするかのように、グウェンが言ってきた。
「かつて冒険者ギルドの前身組織が、別の古神殿に入ったことがあってねー。そこのお宝目当てで、ガーディアンを討伐しようとしたんだけど。
いまでいう、Sランク格の猛者がたくさんいたのに、全滅したんだよね。それ以来、いまの冒険者ギルドになってからも、古神殿の攻略挑戦はタブーとされている。死ぬからねー」
Sランク格で全滅?
「それを、どうしろというんだ??」
グウェンは小首をかしげる。
「お手並み拝見」
「……」
いやぁ、短い人生だったが、ここで終了かぁ。
思い残すことが多いんですが。
一方、わが相棒スゥは、戦剣〈荒牙〉を抜き放つ。
その勇壮なる表情を見よ。
「リッちゃん! いまこそ、わたしとリッちゃんの名を、世界にとどろかすときだね!」
「スゥ……ア、じゃなくて、勇気凛々だな」
「リッちゃん。いま『アホの子』とか言おうとしなかった?」
「相棒。どこまでもついていくぜ」
「え、わたしが先を行くの?」
「いや、今回は一緒に行こう──レオナルド、ガーディアンに近づくにあたり、シールド援護を頼む」
レオナルドはうなずくも、
「分かった。しかし、勝算はあるのか?」
「師匠の言葉をふと思い出した」
──「デバフの真骨頂は、超強敵を相手にしたときにこそある」
「まぁ、なるようになるだろ、知らんけど」
レオナルドのマナ・シールドは遠隔発動が可能だった。
おれとスゥが、ミスリル・ガーディアンに向かうなか、周囲にマナ・シールドが張られる。だがミスリル・ゴーレムの攻撃には、せいぜい耐えられて一回だろうな。
「スゥ、一撃でいいから斬撃を当てろ。もてるすべてのデバフを付与してくれる!」
デバフ耐性持ちではありませんように、デバフ耐性持ちではありませんように。
「うん、信じるよ、リッちゃん!」
ミスリル・ガーディアンの一撃。
思ったより速い。両方の拳を打ちおろしてきた。
ぎりで回避したが、地面を殴りつける衝撃波で、こっちは体勢を崩す。四方へと吹き飛ぶ床の石塊は、シールドで防御できたが。
そのなかスゥは、ミスリル・ガーディンの右腕に飛び乗る。向こうがでかいから、まるで橋のような腕を駆け上がっていく。
「そのでか頭に、渾身の一撃を叩きこむよー!!」
「……いやスゥ。斬撃叩き込むのは、どこでもいいんだけど?」
単に『物理攻撃』判定が欲しいだけなんで。
スゥはミスリル・ガーディアンの右肩を飛びあがり、一軒家なみに大きい頭部にむかって、〈回転斬り〉。
ガーディアン頭部に回転状態で着弾。
さすがに戦剣をもってしても、ミスリルの装甲には傷ひとつつけられない。
だがこれで物理攻撃の条件は満たされた。
そして〈荒牙〉に搭載しておいた、デバフ発動条件が満たされる。
よって以下のデバフが、ミスリル・ガーディアンに付与される。
第一の型【亀の歩み】。効力は、減速状態。
第四の型【冷たいものは冷たい】。効力は、凍結状態。
第十の型【弱らせてなんぼ】。『耐性の弱体化』デバフであり、ようは防御力低下。
第十一の型【弾けとぶときもある】。爆裂傷の付与。
デバフでも燃えそうにはないので燃焼の状態異常はやめておいた。
自我があるかは不明なので混乱系も付与しなかった。
そもそも、そこまでの数は必要ない(さっきスゥには、ありったけと言ったがね)。
まず減速デバフは、念のため。
ここで撃破できなかった場合の。
そのうえで、凍結デバフが利いたので、ミスリル・ガーディアンの全身が氷つく。
だが相手はゴーレムなので、凍結状態を続けても倒せないだろう。
凍結デバフは、動きを完全に封じておくためにすぎない。
第十の型で防御力を下げることで、ミスリルの耐久度を下げる。
そうして耐久を下げてから、時間差で持続ダメージ爆裂傷が起こるわけだ。
ただしこの巨体なので、それは頭部に限定しておいた。
おそらくだが──頭が弱点だろ?
ひとつ使命をこなしてきたスゥが、おれのとなりに着地。
「ふぅ」
「スゥ。もう一回、頭部まで駆け上がって、必殺技をぶちこんできてよ」
「そっか。撃破できるまで何百回でも、だね! リッちゃんもついに、諦めない精神を会得したんだね!」
「あと一回で充分だけどな」




