37,古神殿。
──リク──
「古神殿というのがあってだね」
と、グウェンが説明する。
「これは現人類が移住してくる前から、この大陸にあったそうだ。神々の時代からあるともされるのが、アーゾ大陸に四つある古神殿。あ、ごめん。さすがに、これは常識だよね。アーゾ大陸人なら」
学校の授業は居眠りするところだと思っていたおれとスゥは、互いに顔を見合わせた。
「そりゃあ、スゥ、お前、知ってたか?」
「も、もちろんだよ、リッちゃん。西瓜が野菜というくらい常識」
「西瓜は野菜じゃないぞ」
「そんなこと知ってますー」
レオナルドが咳払いしてから、グウェンに問いかけた。
「確かに古神殿〈風建〉が、聖都の近くにある。女神信仰を尊ぶ聖都人にとっては、必ずしも親しみのある場所ではないが」
グウェンはうなずき、
「女神も神々の一員だということ、忘れているようだね。まぁ、部外者だからこそ見えてくるものもあるってね。古神殿〈風建〉は、たしかに女神の神殿ではないかもしれないけど、女神由来のスキル、すなわち〈封魔〉を移譲する力がある」
なぜに、このグウェンという冒険者同業は、そこまで詳しく知っているのだろう。
そこを問い詰めてみたいものだが、レオナルドはすっかり希望を取り戻している。
「なら〈風建〉ならば、姉さんから〈封魔〉を取り出し、別の者に渡すことができるのか。姉さんを救い、かつ人類を魔物の手から守ることができる」
「一石二鳥でしょう?」
と、笑みを浮かべるグウェン。
そこに企みの匂いをかいだのは、おれだけか?
希望を見出したレオナルド、めでたいねという顔のスゥ、自分の殻から出てこないフライア。
あー、おれだけか。
師匠の教え。
『長いものには巻かれたほうがラク』。
「……じゃ、古神殿〈風建〉とやらに向かうか」
なんと徒歩半日の距離にあった。近いな。
大地と半分融合したような建築物であり、遠目には小山にしか見えないだろう。
レオナルドがここではじめて、疑いをまじえた口調で尋ねる。
「だがグウェンさん。古神殿〈風建〉は、聖都の考古学者によって、すっかり研究されているはず。しかし〈封魔〉スキルを移譲できる、という話は聞いたことがない。そもそも、そのような規格外の力が眠っている場所でもないはずだ」
「それが眠っているんだよ。ただし、この石板を、古神殿内の所定の場所にはめる必要がある」
なるほど。グウェンが重そうな旅行鞄を抱えていると思ったが、なかにはこの石板が入っていたのか。
いわば、力を解き放つ鍵か。
「グウェン。なぜ、こんな石板を所有しているんだ?」とおれ。
「ギルドマスターから受け取った、と言ったら、信じる?」
「……とにかく、石板をはめてみよう。あー、ところで。フライアは、〈封魔〉スキルを移譲することに反対ではないんだな?」
フライアは、はじめておれを見たような顔をした。
「この力は、わたしには荷が重すぎる」
「つまり『イエス』だな。あ、まてよ。移譲先の人を連れてこないと」
グウェンが言う。
「それなら平気。移譲自体は、いつでもできるようになるから。ここで〈封魔〉スキル移譲準備だけ整えて、あとは任せられる者に、〈封魔〉を渡せばいいよ。その者が、第53代神聖聖女だぁね」
古神殿〈風建〉内に入り、進む。
やがて石板をはめ込む場所にたどり着いた。ハーフ・ディアブロ拠点の大空洞にも負けないくらい、開けた場所だ。
グウェンがおれに石板を渡すので、代表して、おれがはめ込んだ。
しばらくなにも変化はなかった。
だが、やがて神殿奥のほうで、何か重たいものがこすれるような音が響く。
その重量級の音が近づいてくる。
見やると、グウェンが数歩後退している。
「なんだ?」
「うーん。アタシ、まだ話してないことがあるんだよねー」
瞬間。
一面の壁が向こう側から破壊され、巨大なゴーレムが現れた。
身の丈50メートルはある。
「なんか、凄いのが出てきたんだけど?!」
グウェンは微笑みはたやさずに、説明した。
「石板をはめると、守護者が目覚めるわけ。あれを撃破してくれたら、スキル移譲ができるってわけだね」
「……そんなことだと思った」




