35,裏技だけどね。
退散するときは手早く。
スゥ、レオナルド、フライアを連れて、ハーフ・ディアブロの拠点を後にする。
フライアも抵抗はしなかった。
ただ撤退前にスゥが、
「まって、リッちゃん。凍結状態の妹弟子さん、忘れてない?」
「いや、まだ忘れてない。この聖都から出て、デゾンに戻ることができたら、忘れる予定」
「ここは敵拠点だよ? そんなところに、凍結状態で無防備のマイリーさんを置いていくのは、さすがに鬼畜すぎるんじゃない?」
「いや、ぜんぜん」
相手がマイリーじゃなきゃ鬼畜だが。
というか、相手がマイリーじゃなきゃ、凍結状態にしないし。
死んじゃうからね、並みの人間が全身凍ったら。
マイリーは常に、自身に『生存能力UP』バフをかけているので、問題ないが。
というわけで、妹弟子は凍結放置で撤退。
ちょっとした撤退戦──通路の先から数体のアサシン・タイプのハーフ・ディアブロが現れ、スゥが斬り捨てる──のちに、脱出。
ハーフ・ディアブロの拠点のあるガル渓谷からも離れたところで、一息つく。
「で、これからどうする?」
レオナルドが厳しい表情で言う。
「姉さんを評議会のもとに連れていくつもりだ」
「あー、レオナルド。お前、それ、姉さんを処刑台に連れていくぜ、と言っているのと同義だぞ?」
「姉さんはそれだけのことをしてしまったんだ」
うすうすと分かってはいたが、この姉弟、なにごとも難しく考えすぎるところがそっくりだな。
なぜに『姉さんを助けた、万歳』で終わらんのか。
「おれは、あんたの姉を処刑台直通させるために、わざわざ命をかけて救出したわけじゃないぞ」
「僕が喜んで姉を犠牲にしたいと思っているとでも? だが仕方ない。姉さんは、本当に自分の意志で、ハーフ・ディアブロたちのもとにいたようだ。〈封魔〉を解除したのも、姉さんの意志。そしてそれを再度発動するつもりがない以上は──人類のためを思えば、これ以外の道はない」
「〈封魔〉スキルだけ、ほかの者に移し替えればいいんじゃないか?」
「それができたら、僕もこんな決断はせずに済んだ。しかし女神の力である〈封魔〉スキルは、神聖聖女が命を落としてはじめて、次の者へと託されるんだ」
「うーむ、マジか」
レオナルドが苦渋の選択をしたことは分かる。
分かるが、なんともすっきりしない展開。
一方のフライアは、自分の殻に閉じこもった様子で、少し距離を置いている。
スゥが困った様子で言う。
「リッちゃん。そもそも、わたしたちの初期クエストって、なんだっけ?」
「ギルマスから与えられたクエスト? 神聖聖女に会ってこい、じゃなかったか。ま、会うには会ったよな。なにも解決した感じはしないが」
「じゃ次のクエストをあげる」
と、いきなりそばから声がした。
わっと、振り向くと、グウェンが当然のような顔で立っている。
「あんた、一体いつのまに──隠密スキルか何かか?」
スゥも驚き顔なので、グウェンの接近に気付かなかったようだ。戦闘訓練を受けたスゥでも、か。
グウェンが刺客じゃなくて良かったな。
「で、心臓に悪い登場をして、何のようだ?」
「キミたち、悩んでいるようだね。そっちの神聖聖女のことで。じゃ、アタシからプレゼントをあげちゃう。キミたちの悩みを解決する方法を」
「どんな?」
「〈封魔〉スキルを、別の人へと移す方法。もちろん、そこのフライアさんは、生きたままでね」
「そんな方法があるのか?」
グウェンは悪戯っぽく微笑んだ。
「裏技だけどね」
で、なんでそんなこと知ってるんだ、この人。




