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34/115

34,裏切り。

 


 魔術師を二体相手にして、勝利できたとは。


 しかもパーティのタンクがサボっているなかで。


「サボるために身につけたデバフ付与スキルで、なんかよく働いてしまっているよな、おれって」


 スゥは、二体のウォーロック・タイプの死を確認してから、鞘に〈荒牙〉をおさめた。


「ふぅ。正直、苦しい戦いだったよね。だけど、わたしたち、息ぴったりのコンビじゃない、リッちゃん?」


「まぁな」


 あのとき、ビー玉がウォーロック・タイプ(炎型)に当たってくれたので、勝てたな。

 敵も、たかがビー玉ごとき、魔法障壁で遮るまでもない、と思ったのだろう。

 それがデバフ付与の発動条件とも知らずに。


 あれが回避されていたら、正直、死んでたのはこっち。


 見やると、レオナルドとフライアは、まだ姉弟喧嘩をしていた。


「いいか姉さん、百歩譲って、ハーフ・ディアブロたちの主張が正しかったとしても、それでも姉さんが〈封魔〉を解除していい理由にはならないぞ。魔物たちをのさばらしていいはずがない」


「だけどそれは魔物たちの権利を妨害しているのかもしれないじゃない!」


「権利だって? それは人類を襲うことなのか? そんな権利を認めてなるものか!」


 しばらく眺めていたら、スゥが心配そうに言ってきた。


「ねぇ、リッちゃん。これって神聖聖女さんの洗脳を証明できなかったら、あの人、かなり困った立場になってしまうよね?」


「それどころか、洗脳を受けていないのかもしれない」


 もちろん、ハーフ・ディアブロに何か吹き込まれ、それを信じたとしても、洗脳とはいえる。


 が、この場合の、フライアが無実となるための洗脳とは、魔法などを使ったものをいう。

 しかし、そこまでの『洗脳』ではなかったのではないか?


 フライアという人は、なんか生真面目な性格のようだし。

 そこをハーフ・ディアブロたちに利用されたのでは?


「とにかく、ここは敵地だ。とっとと退散して──」


 頸に、刀の冷たい刃がおしつけられる。

 また、このパターンか。


 スゥは驚いて〈荒牙〉を抜こうとする。

 が、そのまえにマイリーが命じる。


「バカなことはやめなさい。あんたの恋人の首を斬るわよ?」


「師匠が泣くぞ、マジで」


 もちろん、いま背後からおれの頸に刀を突きつけてきているのは、マイリーだ。

 大空洞でハーフ・ディアブロの第二波を殲滅してから、おれたちを追いかけてきたようだ。


「なんの真似だ、マイリー? 味方だぞ?」


「あいにく『限定味方』は、ここまでよ。そこの神聖聖女の身柄、もらいうけるわ」


 レオナルドが、フライアを守るように立ち、マナ・シールドを展開する。


「やれるものなら、やってみろ」


「やめておきなさい、レオナルド。あたしが本気になったら、あんたのシールド・スキルなんかじゃ、止められないわよ」


 おれはゆっくりと言った。


「マイリー、約束はどうした? おれとお前、同門同士の約束だ」


「あたし、約束って破るためにあると思うのよね。さ、はやくその女をこっちに寄越しなさ、」


 そこまで言ったところで、マイリーは固まった。

 当然だな。

 凍結状態になったのだし。


 第四の型【冷たいものは冷たい】。

 デバフ効力は、凍結状態。


 さらに第二十二の型【忘れたころにやってくる】。


 これは『付与したデバフ効果の発動を遅延させる』というもの。

 つまり、一緒に洞窟内を移動していたときに、すでに凍結デバフをこっそりと付与。


 同時に『デバフ発動遅延』デバフも付与しておいたわけだ。

 この発動遅延デバフそのものの遅延時間は、30秒。


 ただ、発動遅延そのものの発動タイミングは、おれが任意に決めることができる。


 だからマイリーが裏切ったと分かってから、『デバフ発動遅延』を発動。

 きっかり30秒後に凍結デバフが発動して、この通り氷の彫刻。


 ちなみにこの手口だと、マイリーが自身に凍結抵抗バフをかける前に、凍結デバフを埋め込める、というわけ。


「よーし。凍結が切れる前に逃げとこう。たーぶん、怒っているだろうからな」


 スゥが神妙に言った。


「氷漬けにされたら、怒るよね」

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