32,腕のみせどころ。
「姉さん、ようやく見つけた!」
そう言うなり、レオナルドが突っ走る。
その背を見届けながら、おれは思ったことを口にした。
「ああいうのをなんというんだっけ。猪突猛進? まて、パーティ唯一のタンクが特攻するって、どういうことだ?」
姉さんこと、神聖聖女こと、名はフライア。
ゆるふわとした黄金の髪、すらりとした肢体。レオナルドが現れたことに、純粋に驚いている様子。
一方、驚いているのかよく分からないが、不愉快そうではあるウォーロック・タイプの二体。
片方が、何やら呟きながら、魔杖をレオナルドへと向ける。
先端から火炎弾が発射された。
対するレオナルドは、マナ・シールドで防御。
したはいいが、衝撃で後方に吹き飛ばされた。
おれとスゥの間に落ちる。
「……おかえり」
レオナルドは立ち上がり、姉に呼びかけた。
「姉さん、一緒に家に帰ろう。こんなハーフ・ディアブロの拠点は、姉さんの居場所じゃない!」
しかしフライアは、何やら思いつめた様子だ。
「放っておいて、レオナルド。あなた達は、何もわかっていない。このアーゾ大陸は、ハーフ・ディアブロたちのものだったのに、私たちの祖先が、彼らから奪ってしまった。それには女神も加担していた。私たちは、この大陸を正当な種族に返す義務がある」
「そいつらに何を吹き込まれたのか知らないが、そんなことは戯言だ!」
スゥがちょっと不安そうに言ってきた。
「リッちゃん。アーゾ大陸って、もとはハーフ・ディアブロのものだったの? 違うよね? 人類は、外の世界から侵略してきたルシファーと、その臣下たるハーフ・ディアブロと戦い、この大陸を守ったんだよね?」
「……たぶん」
歴史の授業では、そんなことを習うが。
正直、勝者が人類だったなら、どこまで本当かは当てにならない。
よくいうように、歴史は勝者が創る、というしなぁ。
ただ、いま現在、アーゾ大陸では人類が生活しているわけだ。
それをいきなりハーフ・ディアブロに渡す、というのは、どう考えても現実的ではない。
で、そんなことを真面目にフライアが考えているのならば、やはり洗脳を受けたのだろう。
さらにフライアが〈封魔〉の力を使わなくなってしまったことで、魔物たちが活発化しているのも事実。
その被害は、すでに大陸各地で起き始めている。
「もしかし、いま、おれたちは人類代表? フライアを取り戻せるかどうかで、大陸の未来がちょっとかかっている展開?」
「戦っていいってことだよね、リッちゃん?」
「戦うしかないだろうな。真の歴史は~、とか議論している余裕はない。そもそも、向こうのウォーロック・タイプは、やる気まんまんだぞ」
二体のウォーロック・タイプが戦闘に入ろうとすると、フライアが止める。
「まって! 彼は、私の弟なの! 説得させて──あとの二人は知らないけど」
はじめまして、だからな。
ウォーロック・タイプは流暢な人間の言葉で言った。
「巫女。いまこそ、立場を決めるときですぞ。あなたは、人類の罪を償うと、われらに約束したはず」
レオナルドが怒鳴りながら駆けだす。
「姉さんにデタラメを吹き込むな!」
「あー、またタンクが突っ込む。くそ。スゥ、おれたちもいくぞ! とーにかく、敵を蹴散らすしかない!」
スゥが戦剣〈荒牙〉を抜き放つ。
「リッちゃん! いまこそ、腕の見せどころだね!」
この場の戦いだけで終わりそうにないな、これは。
とにかく目先の勝利優先で、頑張ろう。




