30,相性がいいのでは。
スゥは、先ほどの隠し穴をのぞき込んだ。
それから、「鼻がもげる!」と飛び跳ねて、ごろごろ苦しそうに転がりだす。
あー。ここ、トイレか。
待ち伏せされていたとかではなく、ちょうどトイレ中のハーフ・ディアブロが、『オイラがくそしている間に、外に敵がきている』とか思ったわけか。
これは互いにタイミングが悪かったな。
おれはレオナルドに声をかけた。
「レオナルド。あんたの姉さんはいそうか?」
この位置からならば、大空洞の様子をよく観察することができる。ただしハーフ・ディアブロの中には、フードをかぶっている者もいるので、確認作業も面倒だが。
しばらくして、レオナルドは首を横に振った。
「ここには姉さんはいないようだ」
「そうか。にしても、こいつら、何が嬉しくて、ここに集まっているんだろうな?」
100体近くも集まっているのだから、何か目的があるのだろう。
ふいにスゥが真面目な顔で言った。
「リッちゃん。もしかしたら──フラッシュモブの練習かもしれないよ」
「……あー、それはないと思うぞ」
「そうかなぁ。いい推理だと思ったのに」
マイリーが、スゥを唖然として見てから──こいつを唖然とさせるとは、さすがおれの幼馴染──気を取り直した様子で、おれに言った。
「リク。そっちから条件を出すことを許してあげる。あたし、優しいとは思わない?」
「どうだかな。こっちの条件は、神聖聖女の身柄をこちらに渡すことだ。傷つけることなく、な」
「あぁ、そっちのあんたの姉だものね。レオナルド、聖都軍が、『裏切り者』の弟であるあんたを追放しなかったのは、姉があなたに接触してくるかもと泳がせていたからよ」
レオナルドは表情を変えずに答えた。
「そんなことは承知している。そして残念ながら、姉さんは一度も接触してはこなかった」
どうでもいいけど、と言って、マイリーはこちらに視線を戻してきた。
「いいわ、リク。あんたの条件を受け入れてあげる。神聖聖女がいたら、その女の身柄は渡すわ」
とりあえず、信じていいだろう。
マイリーは悪辣な性格だが、とはいえ嘘は好かない。だいたいにおいては……。
「じゃ、そっちの条件は?」
マイリーは刀を突きだすように、こちらに向ける。
「言うまでもないでしょう」
つまり、刀に『デバフ発動準備』をかけろ、ということだ。
もちろん出し惜しみなしに、ありったけ。
「まてよ。ハーフ・ディアブロだからといって、必ずしも悪とは限らないだろ」
「善悪は神が決めることだけど。あれは人間の敵というのは、間違いないでしょ。ほら、そこ」
大空洞の隅っこを指さすマイリー。
そこにはバラバラにされた人間の死体が山積みにされていた。
「……まぁ、そうみたいだな」
デバフ殺法を起動し、『発動準備』状態のデバフを、マイリーの刀身に付与する。
これで『物理攻撃』を発動条件として、次々と敵にデバフが付与されていくだろう。
ふと見ると、スゥが涙目でこちらを見ていた。
「あぁ、リッちゃんが、わたしの剣以外に能力付与をしている……寝取られた気分っ!」
マイリーが、引き気味で言う。
「リク。あんたの相棒、頭、大丈夫?」
「……たぶん」
準備を終えると、マイリーは何も言わずに跳躍。
大空間へと躍り出た。
「まて、僕も同行しよう」
と、自らも出ようとするレオナルドを、おれは止めた。
「まて、いま下手にマイリーについていくと、巻き添えをくうぞ。あいつは、ソロが好きなんだよ」
ハーフ・ディアブロたちが侵入者に気付く前に、10体ほど斬り殺されていた。
デバフとバフの違いは、その効力だけではない。
バフにあってデバフにないもの。
バフは重ねがけができる。
マイリーが自らに付与した、行動速度UPのバフ。
それはすでに3層に重ねがけされている。
この状態でも、すでに目で追うのは難しい神速。さらに重ねがけは可能で、最大10層可能だという話。
だがマイリーの斬撃は、巨体のハーフ・ディアブロによって受け止められる。
バーバリアン・タイプか。
いくら速くとも、一撃の威力が足りなかったか。
バフは、元の能力を上げるのがほとんどなので、パワータイプではないマイリーには、破壊力不足の弱点がある。
瞬間。巨体のハーフ・ディアブロが、粉々に吹き飛んだ。
デバフ殺法:第十一の型【弾けとぶときもある】が発動、敵に付与したのだ。
そのデバフ効力は、爆裂傷の付与。
付与された対象は、爆裂を余儀なくされる。
「デバフとバフの相性の良さ、だな」




