3,修行パート、省略!
~6か月後~
180日ぶりにデゾン都市に戻ってきた。
このアーゾ大陸では、各地は都市国家という形態をとっている。よって、デゾンの外で六か月も暮らしていたおれは、国外旅行していたと同義。
まぁ、悠々自適の旅行とはかけ離れた日々だったが。
なんたって、亜麻色美人さん。すなわち、わが師匠の修行を受けていたのだから。
……修行の日々の9割は、〈暗闇荒地〉にある師匠の家の片づけとか、そういう雑用にこき使われることに終わったが。
というのも師匠、資産はあるくせに、部外者を自宅に招きたくないと、手伝いを雇ったりはしなかった。
だから、弟子であるおれが、労働を提供することになったわけだ。
しかし、残り1割の日々は、ちゃんと修行をつけてくれた。
かくして、いまやおれは、この世界で二人目の、正真正銘のデバッファー。
久しぶりに行きつけのレストランで、鹿肉ステーキを食べていると。
ふいに横っ腹に突進をくらった。
あ、これは突進的勢いで抱き付かれたのか。
「ぐぇぇぇぇ」
たとえハグでも、威力が凄まじいことに変わりはない。内臓損傷まったなし。
「リ──────ちゃぁぁぁぁん!!!!」
と、突撃ハグしてきた幼馴染のスゥが、涙目。
「お、おう、スゥ。いまの一撃、殺す気か?」
「もうリッちゃん。どこに行っていたの? てっきりわたし、リッちゃんは『冒険者として力量を示そうと、ゴブリン退治に行った』のかと思ったよ。だから、わたしはゴブリンの群れの発見報告があるたび、討伐隊に志願していたんだよ」
安堵のあまりか、力が抜けた様子のスゥ。
どうやらかなり心配をかけてしまっていたようだ。置手紙したはずなんだが、何かの手違いで読んでいなかったらしい。
「あぁ、それでゴブリンに返り討ちにあって殺されてしまったのでは、と心配していたのか? それは、心配かけてすまなかったな。ごめん」
「もう、本当だよ。ゴブリンに捕まって、四肢切断のち回されているのかと思ったよー。ゴブリンって、相手が男でも、見境ないからね」
「…………四肢切だ、って。いや、グロくない? ゴブリンって、そこまでするの?」
「昔、若い女性の冒険者さんが、惨殺されたあげく、生首オ×ホされているのを目撃されているけども。まぁ噂だけどね」
「……」
いやマジで、ゴブリン怖い。鬼畜にもほどがある。そんなゴブリンたちから人類を守る冒険者って、偉大だなぁ。
「ま、おれもそんな冒険者の一員なんだがな」
「あ、リッちゃんはもう、冒険者じゃないよ。解雇されたから」
解雇された……え。これからレジェンド冒険者になるはずなのに?
そうして、師匠のように、老後の心配のない金持ちになるはずなのに?
「不当解雇だっ!」
「んーん。無断で180日も出勤しなかったら、解雇されて当然だって。しかも、好きでデゾンの外に行っていたんだよね? ゴブリンの群れに捕虜にされていた、とかなら解雇無効を申し出ることもできたかもだけれど」
「……そういや」
おれはポケットから、メモ用紙を取り出した。
先日。
〈暗闇荒地〉にある師匠の自宅を後にするとき、師匠から渡されたものだ。
──「わたしの出来た弟子ー。もしデゾンに戻って困ったことがあったら、この人物に相談するといいよ。わたし、エレノラの紹介だって」
という感じで。
メモ用紙に記されている人物名を口にした。
「ディーン・ラベット」
するとスゥがふしぎそうに言う。
「あ、それ、いまのギルドマスターの名前だよね」
「え、そうなのか」
「……リッちゃん。ギルマスの名前くらい、憶えておきなよ」
「と、とにかく、そうなのか……ギルマスに伝手があるとは、さすがレジェンド師匠!」
スゥが眉間にしわを寄せて。
「師匠? リッちゃん。もしかして、『師匠詐欺』とかにはまったんじゃないの? 連帯保証人とか、署名させられてない?」
「……大丈夫だ。身体で支払ったから」
労働力で。
「え、身体で!!」
何か勘違いしたらしいスゥが、顔を真っ赤にしている。
さて、ギルマスに会いにいくか。