29,タンク。
レオナルドはマイリーから距離を取りつつ、おれにうなずきかけた。
「落ち合うポイントに行けずすまない」
「ハーフ・ディアブロたちに捕まっていたのか?」
「いや、そうじゃない。君とわかれてから聖都から山小屋に向かう途中、尾行の存在に気付いた。だから逆に捕えようとしたのだが、逃げられてしまったんだ。ただし追跡はでき、この洞窟までたどり着いた。ところが洞窟に入ったとたん、出入り口をふさがれてしまってね。どうやら、ここにおびき寄せる罠だったようだ」
レオナルドが尾行されていたということは、その時点で、隠れ家であるあの山小屋も、ハーフ・ディアブロたちに暴かれていたというわけか。
「ハーフ・ディアブロのもとに神聖聖女、つまりあんたの姉さんがいるのなら、悪くない展開だな。あんたはおびき出されたのかもしれないが、まだ無事だ。そして、おれたちも合流した。あんたの姉さんを助け出し、ハーフ・ディアブロどもを撃退するとしよう」
あぁ、なんか仕事熱心の人みたいな発言をしてしまった。
しかし、時には熱心に働くことが、早くにサボることにつながることもあるのだ。
マイリーの幸運バフはまだ健在のようで、迷いのない足取りで進んでいく。
その後ろを見ながら、おれは幸運バフの弱点を思い出していた。
それはどんなバフにもある時間制限。
幸運バフの継続時間がどれくらいかは、詳しくは知らない。
師匠のところにいたときから、おれに手の内をあかしたがらなかったからな。
ただバフというのは、連続して付与できないものも多い。
幸運バフもそのひとつに違いない。つまり、幸運バフが切れたとき、この洞窟での戦いでは、再度発動できないかもしれないわけだ。
うーむ。幸運バフ付きのマイリーだったら、全てすっかり任せきりにできたのだがなぁ。
しばらくしてレオナルドが、マイリーの背中を示しながら言った。
「彼女と知り合いなのか?」
妹弟子という説明は、別の機会にしよう。
「そういうあんたは、マイリーを知っているのか?」
「もちろんだ。彼女はコア機関の〈四鴈〉の一人だ。ここ半年ほど姿を消していたが、また戻ってきた。血も涙もない女だよ」
〈四鴈〉。四天王みたいなものか。
しかもマイリーは、師匠のもとでバフスキルを会得する前から、その一角を担う実力者だったようだ。つまり、刀の腕だけで。
スゥが顔を赤らめて、おれに囁いてきた。
「リッちゃん、リッちゃん。わたし、四天王とかに憧れがあるんだよね」
いまはお前の、そんな憧れの話はどうでもいいぞ、マジで。
「レオナルド。いい知らせと、悪い知らせがある。マイリーはいま、限定的におれたちの味方だ。ただし、マイリーはいまも、あんたの姉さんを裏切りものとして討とうとしている」
「姉さんのことは、僕が守る。ただハーフ・ディアブロたちと戦うにあたったの戦力となるなら、有難い」
やがておれたちは、開けた場所に出た。
大空洞の、高さ20メートル程度にある接続口に出たのだ。
岩陰から大空洞内の様子をうかがう。
これまで一体たりとも見なかったハーフ・ディアブロが、ここには100体近くいる。
一体一体の戦闘力がゴブリンとは比べものにならないのに、この数とは。
「おい、マイリー。おれたち、連携しないと。分かってるのか、連携だぞ。デバフとバフが織りなす」
「うるさいわね。あんたと連携なんて冗談じゃないわ。デバッファーとバッファーは、分かりあえない宿命なの。了解?」
「いや了解じゃ、な──」
ふいに床があいて、ハーフ・ディアブロが飛び出してきた。
どうやらアサシンタイプらしい。
しかし、突然の登場。床に隠し穴があったとは。
このハーフ・ディアブロが標的にしたのは、最も近くにいたおれだった。
短剣を振り下ろしてくる。
「あーーー、やば」
不意打ちすぎて、どのデバフを使うか思いつかない。
瞬間。レオナルドが割って入り、右ひじに展開したマナ・シールドで、短剣を弾いた。
バランスを崩したハーフ・ディアブロの首を、スゥが刎ねる。
レオナルドが振り返る。
「無事か?」
「おかげさんで。あんた、タンク役だったのか。実に、ありがたい」
これで、アタッカー(スゥ)、デバッファー(おれ)、バッファー(マイリー)、タンク(レオナルド)が、そろった。
バランス最高すぎないか? ヒーラーはいないけど。
だた問題としては──パーティとして結束力は微妙ということかね。




