28,幸運バフ。
水晶体による『セキュリティ』が解除されたことに、内部の者が気づく可能性もある。
ここは急いで進んだほうが良さそうだ。
と、こっちが判断したときには、マイリーの姿はなかった。
超高速バフで、先陣を切ったらしい。
向こうとしては、おれを出し抜いたつもりかもしれない。
が、こっちとしては大歓迎。
どんな敵がいるか知らないが、マイリーに征圧させよう。こっちは手柄などはいらないのだからな。
「危険なことはマイリーにやらせるとして、おれたちはのんびりと歩いていくとするか」
これからの戦闘に備え準備体操しながら、スゥが言う。
「うーん。わたしは構わないよ。だって約束したのは、わたしじゃないし」
「約束? なんの?」
「レオナルドさんという人と。神聖聖女さんを助けるって。マイリーさんが無双モード入って殺しまくったら、その中に神聖聖女さんがいるかも。そもそも、マイリーさんは『聖都軍かコア機関、どちらかにハーフ・ディアブロと結託している者がいるかもしれない』という可能性は受け入れたけど、『神聖聖女が無実かも』とは、微塵も考慮していないわけでしょ?」
「……お前、そういう大事なことは、マイリーが突撃していく前に言えよ」
マイリーを追いかける。
しかし神聖聖女の容姿を知らないので、たとえ見つけても見分けられるかどうか。
入り組んだ洞窟はダンジョン構造を想起させたが、ここでマイリーが、妙な親切心を発揮していた。
分かれ道では、マイリーが曲がったほうの岩壁に印が書かれていたのだ。師匠のイニシャルなので、これはマイリーがつけたもので間違いない。
どうやら、まだ厳密には『限定仲間』ということのようだな。
印に従って洞窟ルートを進みながらも、スゥが不思議そうに言う。
「印で教えてくれるのは有難いけど。どうして、分岐路の『こっち』が正解と言い切れるのかな? もしかしてマイリーさんは、この洞窟の内部を知っていたとか? それだとリッちゃん、怪しいよね?」
「いや、おそらくマイリーも、この洞窟に入ったのは初めてだろう」
「じゃ、どうして自信をもって、ルートが分かるのかな?」
「テキトーだろ。『正しいルートを進む』、という目的意識のもと、分岐路に至るたび、気分で右か左か選んでいる。三叉路とかでも同じ」
「えぇっ! それって、迷子にしかならないんじゃない??」
「いや大丈夫だ。きっと正しいルートだよ。……あいつ、奥義があるんだよ。おれのデバフをもってしても、アレには負ける」
「奥義?」
「幸運バフ……確かに、聖都で襲撃してきたとき、マイリーが幸運バフを使ってなかったのは、本気でおれを殺す気はなかったのかもな」
単純明快ながらも、チート級。
『自分の幸運を極限まで上げる』というバフ効果。
このバフを付与した状態で、確率1000分の1のくじを、1000回連続で当てるのを見たことがある。イカサマなどはない。ただ『死ぬほどツイている』というだけ。
この超幸運状態ならば、初見の洞窟の入り組んだルートも、『なんとなく』で正しいルートを進めることだろう。
このバフ、唯一の弱点は、マイリー自身にしか使えないことだしな。
で、あいつは一匹狼だから、まったくもって問題がないときた。
やがて洞窟ルートの先に、二人の人物が見えてきた。
まず刀を振り下ろすマイリー。
その刀身を紙一重で回避する長身の男。
「バカ、そいつはレオナルドだ! 味方だぞ! マイリー、殺すな!」
マイリーは刀を肩において、おれに視線を投げた。それから再度、レオナルドを見やる。
「あ、本当ね。ここ暗いから、ハーフ・ディアブロと間違えそうになったわ」
「……お前、承知のうえで、『あやまって』殺そうとしたな? 聖都軍の兵など切り捨てて問題ないと」
マイリーが純粋そうににっこり微笑んで、
「わたしが、そんな悪人に見える?」
スゥがハッとした。
「ここでレオナルドさんを斬り殺さなかったのも、幸運バフのおかげなのかな、リッちゃん?」
「いや、これはおれのおかげだろ」
しかし、ここでおれが現れることも含めての幸運だったとしたら──なんかややこしいから、もう考えるのはよそう。
とにかく、これでレオナルドと合流できたわけだ。




