表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/115

26,休戦。

 

 このまま聖都を出るのは難しそうなので、人込みに紛れる策を取る。


 賑わっているカフェのテラス席に座り、おれは報告書の写しを開く。


「聖都軍、コア機関、双方ともにハーフ・ディアブロのカルト教団が活動していること、そして神聖聖女がその教団に『移籍』した、と見ているようだ」


「ハーフ・ディアブロの集団って、カルト教団なの?」


「悪魔始祖のルシファーを崇めているから、らしいが。そんなこと言ったら、聖都も女神を崇めているのにな」


「もうリッちゃん。そういう発言を、信徒の多いところで不用意に言わないでよね。で、そのハーフ・ディアブロの教団のアジトとかは、発見されていないの?」


「発見されていない」


 本来は、発見されていてしかるべきだよな。

 ハーフ・ディアブロの活動が、この聖都を中心にして活発に行われているのは、明らか。

 となると、聖都の外のどこかに拠点があるはずで、そこに神聖聖女がいる可能性も高い。


 調査報告書の写しには、この聖都グルガ一帯の地図も記載されていた。

 青い線で囲まれているのが、聖都軍が調査した領域。

 赤い線で囲まれているのが、コア機関が調査した領域。


 綺麗に二分にされている。

 そして、これほど広範囲に調査したのに、ハーフ・ディアブロの拠点は発見されていない、ということか。


 ふいに殺気──同時に、おれの頸に、刀の冷たい感触が触れる。


「見つけたわよ、リク」


 と、苛立ちたっっぷりのマイリーの声が、後ろからする。


 しまった。気配を消す類のバフをかけて接近してきたのか。


「しつこいな、お前は」


 スゥが慌てふためいている。


「ど、どうするの、リッちゃん?!」


 マイリーがスゥに向かって、冷ややかな声で命令する。


「あんたは武器を捨てなさい。雑魚剣士。さもないと『リッちゃん』の頸動脈をばっさりとやって、血をまき散らすわよ?」


「うぅ……」


 スゥが悔しそうに、鞘におさまっている戦剣〈荒牙〉を放り捨てた。


 あれ。これって、詰んだのか?


「これで、デバフとバフ、どちらが優れているか、ハッキリしたわね。そうでしょ、リク?」


 返答したのはスゥだった。


「リッちゃんは、あんたを傷つけたりしないよう、手加減していたんだから」


「あんたは黙ってなさい。というか、あんた、リクのなんなの?」


 スゥは胸を張って、


「わたしは、リッちゃんの──未来の嫁!」


「リク。あんた、女を見る目がないわね」


「お前、それはスゥに謝れ。スゥはいい嫁になるぞ。料理はおれがやれば、食中毒で誰かが犠牲になることもないしな!」


「そうそう。って、どういうこと、リッちゃん?!」


 マイリーが溜息をつく。


「あんたらの漫才に付き合っている暇はないのよ。リク、あんたはこれから、わたしの手柄として捕縛されるの。そして──なに、その手元に開いている聖都の周辺地図は?」


 グウェンから受け取った、ハーフ・ディアブロの拠点の調査結果が示された地図のことだ。


「確かに、聖都軍とコア機関、双方が探しつくしても、連中の拠点は見つからなかったわ。だけど、あんたの冒険者のお仲間の調べも、たいしたものではないわね。

 赤い線の枠が、コア機関が調べた領域でしょ? だけど、ガル渓谷は、うちらが調べてはいないわ。調査の管轄は、聖都軍だった」


 しかし地図上では、ガル渓谷は、コア機関が調査したことになっている。

 しかしマイリーは、コア機関の管轄ではなかったという。

 すると実際は、聖都軍が調査したのだろうか。


 これはグウェンの写しミスか? または。


「なぁ、マイリー。どちらかの組織が嘘をついている、ということは考えられないか? どちらかの組織が、実際は調査していないのに、調査は済んだ、と聖都の評議会などに報告しているのではないか? だとしたら、見つからなかったハーフ・ディアブロの拠点は、まさしくそこにあるのでは?」


「何が言いたいのよ? コア機関が嘘をついている、と言いたいの?」


「いや、嘘をついているのは、聖都軍かもしれないぞ。聖都軍が、コア機関に対してはガル渓谷の縄張りを主張しつつ、外部には『コア機関の縄張りだ』と言ったのかもしれない。そのことをコア機関が知らない、ということも、間抜けな話だがなくはない」


「どっちにしても、あんたの話が正しかったら、どっちかの組織が、ハーフ・ディアブロの拠点を隠している。つまり、ハーフ・ディアブロと結託している、ということになるわよ」


「少なくとも、どちらかの組織内の一部の者が、な」


 しばしマイリーは沈黙していた。

 それから刀を引き、鞘におさめる。


「いいわ、リク。一時休戦してあげましょう。真相がわかるまでは、調査を協力してあげる。だけどすべてが終わったら、あんたを叩きのめすわよ」


「一時休戦は大歓迎だが、どうしてそこまでして、おれと決着をつけたがる?」


 マイリーが答える前に、スゥが警戒した調子で指摘した。


「さては、リッちゃんのことが好きなんだね! ちょっかいだすのは、好きだからでしょ!」


「……リク。あんたの相棒、ムカつくから臓物引きずり出していい?」


「やめろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ