25,お前用だよ。
さて。冒険者出張所から離れるとして、どういうルートを取るか。
先ほどグウェンは、ハーフ・ディアブロの情報だけでなく、聖都のMAPも渡してくれていた。
おれたちを売りながらも、冒険者の同僚としても、最低限の協力をしてくれたわけだな。
さっそく聖都のMAPを確認。
この近くでは、聖都軍の施設がここで、コア機関の施設がここか。
「よし。グウェンは双方の組織に密告したわけだが。聖都軍、コア機関、双方の最寄り施設から追手がかかるとして、それらを迂回できるルートが、ひとつだけある」
「え、どこ、リッちゃん?」
「屋根の上だー」
というわけで、近くの建物の外壁をのぼって、屋根上に。
この一帯の建物は同じような高さで、密集している。
よって屋根上を直通ルートで、この東区域から出ることができる。
そうして進んでいると、ふいに殺気を感じた。
いやまて、おれに殺気を感じ取るような、高尚な能力があったか?
ない。
ただし、ある特定の人物に対しては、なぜか勘が働く。
つまり、
「気をつけろ、スゥ! マイリーだ!」
近くの路地から、マイリーが跳躍してきた。
その身軽さは、自身の運動能力にバフをかけているのは間違いない。
にしても、おれの逃走ルートを読まれていたというわけか。
だから、『ひとつ屋根のした』でいがみあった妹弟子は嫌いなんだ。
「もうリッちゃんのストーカー、どうにかならないの?」
「いやだからストーカーでもないって」
地味に『元カノ』から『ストーカー』に格落ち(?)したのな。
マイリーの刀の一閃。
それを戦剣〈荒牙〉で受け止めるスゥ。
しかしマイリーの視線はこちらに向けられている。
「見つけたわよ、リク! いい加減に観念しなさい! その首、もらいうける!」
「殺す気かよ! 師匠が泣くぞ! ……たぶん」
「師匠には、あんたはバナナの皮に足をすべらせて頭打って死んだ不幸な事故だったわ悲しいわね、とでも言っておくわよ! どうせ、追及してはこないでしょ!」
確かに。
面倒くさがりの師匠のことだから、そのふざけた説明で納得しそう。
スゥが、自分をスルーで会話されていることに苛立った様子で、
「もう、いい加減にしなさい! 必殺〈回転斬り〉!!」
スゥの必殺の一撃。
対するマイリーは、なぜか刀をおろす。
「はいはい、あんたに用はないのよ」
物理攻撃無効バリアか。
しかもバリアに加えられた物理攻撃を、そのまま反射する効力まである。
つまりスゥの必殺技をあえて受けて、その破壊力を、そのままスゥにカウンターしようというわけか。
「おれが、二度も同じ手にかかると思うか? スゥはともかく、」
スゥの戦剣に準備状態でかけられていた、第四の型【冷たいものは冷たい】が発動。
そのデバフ効果は、凍結状態。
「物理攻撃無効バリアじゃ、凍結デバフは回避できないぞ、マイリー」
これは勝ち誇ってみたのだが、マイリーに異変は見られない。
「『凍結抵抗』バフくらいかけておいたに決まっているでしょ?」
「……腹立つな」
スゥが〈回転斬り〉を終えて着地する。
「あれ。わたしの必殺技がくらってない」
不満そうなスゥだが、マイリーも怪訝な顔をする。
「ダメージ反射が機能していない?」
わざわざ種明かしをするつもりはないが。
デバフ殺法:第零の型【お前用だよ】も発動していたのだ。
効力は、『付与されているバフを解除する』。
まさしく、バッファーである妹弟子マイリーのために用意された、特注デバフ。
しかし、この『バフ解除』の弱点は、一度にひとつしかできない。
だから『物理攻撃バリア』のバフ解除ではなく、『ダメージ反射』のバフ解除しかできなかった。
まぁバリア解除でダメージ反射も自動解除されたかもしれないが。
念のため。
「スゥ、足元だ!」
なんだかんだで、スゥとは以心伝心。
スゥは素早く、マイリーの足元に〈荒神〉の剣先を突き刺す。
第三の型:【だいたいのものは燃える】。
対象に燃焼効果を付与するデバフ。
今回は屋根そのものに付与した。
とたん屋根が燃え上がり、火炎がマイリーに襲いかかる。
「あー、もうムカつく!!」
マイリーにまとわりついた火炎を、さらに凍結デバフで凍らせた。
結果、凍りの彫刻に同化した感じで、マイリーの動きを封じる。
まぁ、時間稼ぎにはなるだろ。
スゥと屋根から飛び降りて、できるだけ距離を稼いだ。
「あんなにリッちゃんにこだわるのは、実はリッちゃんに惚れているんじゃないの?」
「それ、本人の前で言うなよ。千回刻みという拷問で殺されるぞ」




