24,ハーフ・ディアブロ。
「ハーフ・ディアブロって、人類と昔に戦争していた、あの? 歴史の教科書の中だけの種族かと思っていたが」
大陸全土を巻き込む大戦があったそうだ。
500年も前のことだが。
「ここ数十年、いくつかの都市では報告されているんだよね。ハーフ・ディアブロが地下の深いところから戻ってきたって。ところが、これが面白い話。どこの組織も、ホブゴブリンの見間違いとかにしている」
「魔物とヒューマン種族じゃ、まったく違うだろ。生命の根幹的なものが」
「まぁ、ハーフ・ディアブロが戻ってきたと知られたら、人々は大騒ぎになるからね。情報統制というやつなんじゃないのかな?」
すると、だ。
デゾンを襲ったゴブリンたちを指揮していたのも、実はこのハーフ・ディアブロの一体だったんじゃないか?
まだ仮説だが、変なところでつながってきたな。
スゥが、なんだか誇らしそう。
「ハーフ・ディアブロって、とてつもない強い種族だったんだよね? それを剣一本で撃破したわたしって、すごくない?」
「わたしの知識だとさ、新米剣士ちゃん。ハーフ・ディアブロも人間と同じで、クラスがあるんだよね。ウォーロック、バーバリアン、そしてアサシン。
この中で、最もヤバいのが、ウォーロック。というのもハーフ・ディアブロは、ヒューマン種族でありながらも、人間と違って魔法が使えるからね。
しかも魔物と違い、その魔力量は桁が違う。
そして魔法の才には恵まれなかったけど、戦える者は戦士となる。すなわちバーバリアンだね。
で、バーバリアンにもなれなかった雑魚が、雑務係となる。ただ雑務係と呼ばれていたら気の毒だからか、アサシンと、響きだけはカッコのいいクラス名で呼称されているってわけ。
で、新米剣士ちゃんが斬ったと喜んでいるのは、バトル内容を聞いたところ、このアサシンで間違いない。言いたいこと分かるかな、雑魚狩りちゃん?」
スゥがまたもムッとした顔で、おれを見てきた。
「リッちゃん。この人、嫌い」
「友達作りに来たわけじゃないから、別にいいだろ」
グウェンが愉快そうに微笑んでから、
「ハーフ・ディアブロについてまとめた報告書があるから、キミたちにも写しをあげよう。ちょっと、取ってくるね」
そう言って、店の奥に引っ込んだ。
待っているあいだ、状況を整理するとしよう。
「スゥ。いろいろと見えてきたな。ハーフ・ディアブロが絡んでいると分かったことで」
「え、そうなの? どういうことが見えてきたの?」
「いいか。レオナルドの話では、姉の神聖聖女は、聖都を捨てたらしい。ではその神聖聖女はどこに向かったのか。おれは、ハーフ・ディアブロのところだと思う」
「え? それって、本当に人類を裏切ったということ?」
「聖都軍やコア機関はそう見ているようだ。しかも敵陣営がハーフ・ディアブロとなっては、そりゃぁ『神聖聖女の関係者』という密告だけで、おれたちを問答無用で捕まえようとしたのも分かる。
だがレオナルドは、姉の無実を信じていた。根拠は聞いていないが、おれは家族の情は、ときには真実を見抜くこともあると思う」
「つまり、神聖聖女さんは、ハーフ・ディアブロに騙されたか何かしている、とか?」
「かもしれない。いずれにせよ、レオナルドが、よそ者であるおれたちを頼ったのも、納得だな。ここまで状況が厄介だと、聖都の者たちでは解決できないかもしれない。ただでさえ、聖都軍とコア機関は互いのメンツを潰そうと躍起だしな」
店の奥から報告書の写しを持って、グウェンが歩いてきた。
おれとスゥの会話が聞こえたようで。
「そうそうメンツ、といえばね。聖都グルガで、よそ者である冒険者出張所がやっていくには、軍とコア機関、双方のメンツを潰さないことが大事なんだよね」
「……あんた、なにをした?」
グウェンは悪びれもせずに答える。
「キミたちがここにいることを、いま密告してきたわけ。古典的な伝書鳩でね。すぐに連中、ここに駆けつけてくるよ。その前に逃げるといい。キミたちを引き留めることまでは、さすがにしなくても責められないでしょう。あ、報告書の写し、どうぞ」
写しを受け取る。
「あんたを責める気はないさ、グウェンさん。ただ……このハーフ・ディアブロの生首は置いていくからな」
「こっちで捨てておくよー」




