21,ひとつ屋根のした過去形。
収容所を出たところで、ちょうど聖都軍の二個小隊と出くわした。
間が悪い。
「なんだ貴様たちは! さては脱走者か!」
と、兵たちが武器を抜く。
「平和的解決でいこうよ、リッちゃん!」
そう言うと、スゥは鞘におさまったままの戦剣〈荒牙〉を示す。
つまりこれは、『鞘に入れたまま殺傷能力なしでデバフ付与攻撃をする』という意味であり、これがスゥの価値観での平和的解決。
収容所内からも追手の気配があるな。
そこで、鞘におさまった〈荒牙〉に付与する発動準備デバフは、
デバフ殺法:第六の型【何がどうしてこうなったのやら】。
効力は、混乱。
自分のことも分からない混乱状態に陥るデバフで、効力時間は個人差があるが、だいたい10分ほど。
「よし、行けスゥ」
「りょーかい!」
スゥは舞うようにして、兵たちを撃破していく。鞘ごしなのでダメージは微々たるものだが、そこに第六の型のデバフが付与されていく。
混乱に陥った兵士たちが、何がなにやら分からないという顔で、右往左往しだした。
その中を、おれたちは通り過ぎる。収容所内から追手の兵たちがやってくるも、混乱状態の味方とかちあい、進めなくなった。
この間に、おれとスゥは脱獄に成功。
「さてリッちゃん、説明してもらうよ」
収容所から離れながら、スゥがそう詰問してくる。
というわけで、おれはスゥと別れてからのことを話した。
スゥにとっては、どれも驚きの連続だろう。
いまの神聖聖女の立場、その弟に助けられたこと。そしてギルマスが、すべて承知で送り出してきたことも。
ところがスゥが求めていた情報は、これではなかったらしい。
「それじゃなくて。さっきの元カノのことだよっ!」
「あいつは、妹弟子。名前はマイリーといって。おれが世界で唯一の現存するデバッファーであるように、あいつは、ただ一人のバッファー」
ちなみに師匠は厳密には、デバッファーでありバッファーなので、世界で唯一の完全無比たるサポーター。
「どこで知り合ったの?」
「師匠の家で。同じ時期に、師匠の弟子をしていたからな。あいつのほうが、少し弟子入りが遅かった」
なぜかスゥが、やけに激しい反応を示してきた。
「そ、それって! 同年代の女の子と、ひとつ屋根のしたで暮らしていた、ということ?! 不健全だよ、リッちゃん!」
「…………なぁ、ところで師匠のこと、紹介したことないよな?」
「え? 紹介してもらってないけど。きっと叡智を極めたお年寄りのかたなんだよね」
あー、なるほど。
美人師匠とひとつ屋根の下で生活したこと(何もなかったけど)はスルーで、マイリーのことだけ言ってくるのはなぜか、と疑問だったが。
そうか。『師匠』という響きで、仙人みたいなイメージを勝手に抱いているのか。
まぁ、その勘違いは、訂正しないでおくとしよう。
そうこうしているうちに、聖都の脱出に成功。
人々の出入りの激しい都市なので、出るのはそう難しいことではなかった。
このまま例の山小屋で、レオナルドと合流するとしよう。
しかし──
コア機関にマイリーがいるのは、厄介極まりない話だよな。
デバフとバフって、どっちが強いんだ?




