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20/115

20,バフというやつは。

 


「ところで──まさか、敵対するわけじゃないよな? おれたち、同門の身だろ?」


 と、おれが尋ねたのも、マイリーが腰の鞘から刀を抜き放ったから。

 なんとも自然な流れで。


「リク。ひとつ聞きたいんだけど。あんた、師匠のもとを去ってから、あたしのことを思い出したりした?」


 ふむ。とくに思い出していない。というか、思い出す必要性がなかったし。

 なぜなら、おれたちは死ぬほど仲の悪い弟子仲間だったから。


「あーーー。思い出した、よ?」


「ふふん。あいかわらず嘘が下手ね。あたしは一度だけ思い出したわよ。先日、ケチな犯罪者の右腕を切り落としたとき。あ、この雑魚、あんたと少し顔が似ている、とね。その犯罪者は気の毒に、戦闘不能になっていたのに、あたしに顔面潰れるまで蹴られてしまったわ」


 マイリーならやりかねん。マジで。


「コア機関ってところは、どうなってるんだ。そんな暴力が許されるのか」


 にこやかな表情のマイリーが、刀の切っ先をおれに向けて来た。


「とにかく、リク。ここで会ったのが、あんたの運のつき。さすがに師匠が悲しむから殺しはしないけど──あんたはいまや聖都のお尋ね者。ただで済むとは思わないことね」


「嬉々として言ってくれるな。しかしマイリー。お前、バッファーだろ。バフを付与する仲間がいないのに、どうやっておれと戦うつもりだ?」


「デバフと違って、バフは──」


 瞬間。マイリーの姿が消える。

 いや、これは超高速移動──。


「──自分にもかけられるわ!」


 行動速度UPのバフを自分にかけたのか。


「しまっ、──!?」


 マイリーが一閃させた刀は、別の剣身によって受け止められた。

 おれの首から数センチのところで。


 いや、これ。普通におれの首を獲りにいってない? 寸止めする気だったのか? 頭、大丈夫か、この妹弟子。


 さて。この別の剣身を目でおえば、頼もしいスゥの姿。

 武器庫から戦剣〈荒牙〉を回収し、戻ってきてくれたようだ。


「リッちゃんの元カノ、頭、おかしいんじゃないの?」


「元カノじゃないって」


 ビー玉を射出させて、マイリーの刀身に当てる。


 デバフ殺法:第十八の型【忘れ物だよ】。

 そのデバフ効果は、装備の強制解除。


 解除された刀が、少し離れたところへ空間転移で弾き飛ばされた。


 ちっ、とマイリーが舌打ちする。


 おれは勝ち誇らせてもらうとしよう。


「バフと違って、デバフは多種多様なんだよ。バフなんて、攻撃力をあげたり、敏捷性を上げたり。肉体能力を高める程度だろ。そこいくとデバフは、いろいろとできるんだ」


「リッちゃん。この子、どうするの? 気絶させる? やっちゃうよ!」


「あ、よせ」


 スゥが、マイリーの頭部へと〈荒牙〉の柄頭を叩き込もうとする。確かに命中すれば、気絶させることができただろう。


 マイリーが冷ややかに見返して、


「ばーか」


 とたん戦剣〈荒牙〉が弾き飛ばされる。見えない壁にぶち当たったように。

 いや実際、ぶち当たったらしい。


 物理攻撃無効バリアか。これもバフのひとつだよな。


 しかし、効果はそれだけではなかったらしい。


「うげっ!」


 と、スゥが顔面を殴られたように、後方に吹き飛ばされる。

 なんとか受け身をとったが、物理ダメージを受けたようだ。


「バリアに受けたダメージを反射する効力まであるのか」


 複数の駆ける足音が、遠くから近づいてくる。

 さすがにここの騒ぎを聞きつけたようで、聖都軍の兵たちが駆けてくるようだ。


 おれとスゥも困るが、マイリーも顔をしかめる。


 そうだよな。コア機関のこいつが、聖都軍の収容所にいるのがおかしい。おれを追ってきたわけでもないようだし。


 そうか。もともとの目的は、スゥにあったのか。

 マイリーは今のいままで、『聖都にやってきた神聖聖女とかかわりのある二人組』の片方がおれだとは知らなかった。


 だが『二人組の男のほう』を捕縛しそこねた以上、『女のほう』であるスゥを、この収容所から奪いにきたと。


「マイリー。お前も、ここにいるのが見つかったら、何かとマズイんじゃないか」


「いいわ。決着は、またの機会にしてあげる」


 刀を取り上げるなり、行動速度UPで駆けていった。


 それを見届けてから、おれはスゥに言う。


「おれたちも、兵たちが来る前に逃げるぞ」


「もうリっちゃん、元カノ、最低」


「だから元カノじゃないってのに」


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