18,脱獄計画。
聖都は中心にある神塔。
さらに東西南北の四つの区域で分かれている。
で、聖都軍が管理する収容所は、南区域にあった。
この収容所内に、スゥは囚われの身、なのだと。
その収容所を観察できる建物の一室に、おれとレオナルドはいた。
数刻前まで身を隠すのに使っていたのは、聖都の郊外にある山小屋。
そこから、いわば敵地と化した聖都に戻ってきたわけだ。
ちなみに、いまおれたちがいる部屋は、レオナルドが偽の身分で借りているのだとか。
だから追手がここにたどり着く心配はない、ということらしい。
ようは隠れ家を、聖都軍の施設の目の前に用意していたと。
大胆不敵というかなんというか。おかげで、収容所の様子を見ることはできたが。
「なぜおれはコア機関とやらに引き渡されるはずだったのに、スゥはあんたらの軍の収容所に?」
「取引があったからだ。まず君たちの正体については、何ものかの通報が事前にあった。神聖聖女と関係のあるよそ者が、聖都入りすると。
そのよそ者が、男女のペアだとも。それで聖都軍とコア機関は、片方ずつ身柄を取り、尋問するという話になった」
「通報が? こっちの動きは知られていたのかぁ。それが、おれの葡萄酒に薬を盛った奴かもしれないな」
にしても、いまの話からしても、聖都軍とコア機関の仲は悪いらしいな。
ま、似たような性格の組織が都市に二つあれば、何かと競い合うのはおかしなことでもないが。
面倒なことだなー。
「ところで神聖聖女、つまり、あんたの姉さんの名前は?」
「フライアだ」
「そうか」
はたして、おれはフライアと会うことがあるのだろうか。
とりあえず、スゥの脱獄作戦に失敗したら、そんな心配もせずに済む。
「レオナルド。あんたはスゥを脱獄させるのに同行しないほうがいいだろう。これ以上、聖都軍との関係をこじらせないほうがいい。まぁ、おれが失敗したら、ギルマスに『呪ってやる』と伝えてくれ」
レオナルドが怪訝そうな顔をする。
「……すると、君は呪術師なのか?」
「はぁ? いや、そうじゃなくて──まぁ、いいや。じゃ。あぁそうそう、落ち合う場所を決めておこう。追われている場合、この隠れ家に戻ってくるわけにもいかないしな」
ということで、再度、聖都郊外にある山小屋を落ち合う場所とした。
おれは隠れ家を出て、ぐるっと迂回してから、収容所の後ろに回る。
高い塀がある。はい、登れない。
ふむ。デバフ付与スキルって、こんなときにも応用は利くのだろうか。
いろいろと考えたが無理そうなので、正面に戻ることにした。
警備の聖都兵が二名配置されている。
おれはテンポの速い足取りで向かっていく。
すると兵側が、
「おい、まて止まれ。この施設に用があるのならば、まずはそこで身分を名乗れ」
「おたくたちが探している指名手配人」
ここで秘密道具の登場──小型のビー玉発射器。
まぁたいしたものではない。空気圧でビー玉を効率よく飛ばすだけで。
「なんだ、お前、そこで腹ばいになれ!」
こちらが武器を取り出したので、向こうも剣を抜いて応戦しようとする。
ビー玉の連射で、二人ともヒットさせる。
デバフ殺法:第五の型【昼下がりの温もり】。行動阻害系の睡眠デバフ。すぐさま二人ともぐぅすか眠りだした。
爆睡中の警備兵が発見されるのも時間の問題。
ここからは、巻きでいくとしよう。
駆けていき、収容所内に飛び込む。
あいにくレオナルドも、収容所内のどこにスゥがいるかは不明とのこと。
誰かに聞くか。
はじめに遭遇した兵士の左足に、ビー玉を射出。
第四の型【冷たいものは冷たい】。効力は、凍結状態。
これを限定的に発動した。
そのため、その兵士の左足だけが凍結する。
「うわぁぁぁ、なんだこれはぁぁぁ!!」
「落ち着け。大丈夫だ。ちゃんと解除してやるから。いいか、よそ者の少女を、ここに捕らえているはず。どこの部屋に収容しているのか教えてくれたら、解除してやる」
「そ、それは、いまは第四尋問室にいるはずだ。さぁ、はやくこの氷をどうにかしてくれぇぇぇ!!」
おれはその兵を【昼下がりの温もり】で眠らせてから、凍結デバフを解除した。
あいにく凍傷は免れそうにないが、まぁ、軍なんだから良いヒーラーがいるだろ。
「第四尋問室。上か」




