15,聖都グルガ。
都市国家の民にとって、よその都市は外国圏。
その都市の領土がどこからかは、線が引かれているわけでもないので、曖昧なことも多い。
ただ明確な場合もあって。
都市デゾンから北西に向かい、とある河を渡ると、その先はお隣の聖都の領土。
「聖都グルガというのは、かつて女神が治めていた都市なんだって。というより、このアーゾ大陸最古の都市なんだよ、リッちゃん。
女神には魔物を退ける力があり、この力は、代々選ばれた少女へと受け継がれてきた。それが神聖聖女というそうだね。いまは52代目で、わたしたちが謁見を求めるのも、この第52代目の神聖聖女さま」
と、聖都グルガのパンフレットを読みながら、講釈を垂れるスゥ。
「そんな大物と会えるのか? ギルマスから紹介状でももらっていれば別だが、あの人、何も寄越さなかったものな」
「うーん。そこは、わたしたちへの信頼の証、じゃないかな?」
「こっちは『デバフ付与』スキルを会得しているだけなのに、これまた過大な期待だな。まったく、聖都の方向に〈暗闇荒地〉があったら、途中で師匠宅によって、じかに文句を言うところだったんだがな。まったく正反対の方角だものな」
「というか、〈暗闇荒地〉って、どこの都市も領土としたくない荒地だよね? よくそんなところで生活できていたね?」
師匠宅の庭だけは、荒地とは無縁。どんな手を使っていたのか、菜園などが豊かだった。
それに週に一度は、食糧が運び込まれていたし。
詮索するのも面倒だったので聞かなかったが、あれらの食糧、どこから配達させていたんだろう。
「まぁ、おれの師匠だからな」
徒歩だったので、三日の旅となった。
野営とか、本当に身体にこたえる。おれはベッドじゃないと眠れない身体なんだがなぁ。
というわけで、ようやく聖都が見えてきたときは、ほっとしたものだ。
この先、どんなクエストが待ち受けているにせよ、とにかくベッドで眠ることができる。
聖都グルガ入り。
大陸一古いとあって、歴史的な建物も多い。それにデゾンよりも、各建物の密集率が高いな。
「よし、宿を取るぞ」
「リッちゃん。まさかすぐにベッドで寝る気じゃないよね?」
「くたくたなんだよ。外じゃ、熟睡できないんだよ。おれは繊細なんだから。とにかくひと眠りしたら、神聖聖女に会いにいこう」
「わたし、先に神聖聖女とどこで会えるか聞きこんでくるね」
真面目なスゥが行こうとするので、おれは引き止めた。
まず宿を決めてからでないと、スゥが戻ってこられない。
中級の宿を選んで、部屋を借りる。
スゥとは相部屋にしたが、下心とかがあったわけではない。幼馴染は、無駄にそんな気は起きないものだ。ここぞというとき以外は。
ただ何となく、同じ部屋にしたほうが安全な気がした。
「いいかスゥ。聖都は開かれた都市だから、よそ者にも丁重に接してくれるようだ。だからといって、ここが『異国』であることは忘れるなよ」
「わたし、子供じゃないよ。リッちゃんは休んでいて」
「お前も休めばいいのに」
「わたし、体力には自信があるからね!」
元気なスゥを見送ってから、おれはベッドで一寝入り。
三時間ほどで目覚めて、伸びをする。
「さて、スゥはまだ戻ってきていないのか。神聖聖女とどこで会えるのか聞きこんでいるはずだが」
宿を出て、スゥを探しに行く。
入れ違いにならなきゃいいが、と少し心配になかったが。
それは杞憂に終わった。
スゥを見つけたので。
しょんぼりした様子で、武装した兵たちに連行されているところだった。
「……………いや、マジか、おい」




