12,師匠の約束。
ギルドマスターのディーンに連れられて、おれとスゥは、冒険者ギルド本部に移動した。
さらにギルマスの執務室に導かれる。
ディーンはまずおれを見やると、申し訳なさそうに微笑んだ。
「まず、リク。君のような逸材が解雇されていたとは。人事については、私は部下に任せきりでね。すでに猛省しているところだが。是非、私の謝罪を受け入れ、冒険者に戻ってきてほしい」
「ええ、戻りますよ。おれは、ざまぁ精神とかとは無縁なので。ところでゴブリンたちからデゾンを守った報酬のようなものはいただけます、ぐへっ」
最後に『ぐへっ』したのは、スゥが肘鉄を食らわせてきたからだ。
「リッちゃん、相手はギルマスだよ。もっと態度を改めて」
「あぁ、分かった。けど痛い」
ディーンは微笑ましそうに言う。
「君たちは仲が良いようだ」
「はい、幼馴染です」
とスゥが答える。
ディーンは、まったく会話のテンポを変えずに、言った。
「どうりで相性抜群というわけだね。良いコンビだ。ではさっそくだが、君たちにはこのアーゾ大陸を救ってもらいたい」
なんという話題の飛躍。確かに都市デゾンは守ったが、どうしてそこから大陸守護の任務になるんだ。
そもそもデゾンの冒険者ギルドのギルマスであるディーンが、なぜ大陸全土のことを気にするのか。
おれは咳払いしてから、
「………えーと。すみません、人違いしてますね。きっとおれたちの後ろに、『蘇った大英雄』とかがいるのでしょう。その人に、アーゾ大陸を守るように命じたんですね」
念のため後ろを見てみたが、誰もいなかった。
その隣では、スゥが誇らしさに爆発しそうな様子で答える。
「アーゾ大陸を? 了解しました、ギルドマスター!」
「こらこら、スゥ。お前、安請け合いとうものを知っているか?」
「それはつまり『任せてよ、ベィベー』という意味?」
「よし、まずお前には辞書買ってやる。とにかく安請け合いするな」
「だけど冒険者として、ギルドマスターの命令は絶対だよ」
それからスゥはディーンに向きなおって。
「ギルドマスター。アーゾ大陸の未来、わたしとリッちゃんにお任せください!」
おれはスゥの両肩をつかんで、再度、こちらに向きなおした。
「お任せするな。ギルドマスターも、冗談がきついですよ。確かに、おれとスゥはゴブリンたちからデゾンを護りました。ですが、たかがゴブリンですよ、敵は。この大陸には、奴らの数百倍恐ろしい魔物たちがいるのでしょう。おれとこいつには、荷が重すぎます」
ディーンは何を考えているのか分からぬ、無駄に穏やかな表情だ。
「そうかい? 私は、そうは思わないが」
「まさか。おれはさっきまで解雇されていた身ですし。スゥだって、冒険者ランクは最下位の〈銅〉ですよ」
スゥがムッとした顔。
「新入りなんだから、〈銅〉は当然でしょ。実力じゃないよ」
「経験がものをいう世界なんだから、実力相当だろうが。というか、スゥ。お前は口をはさむな。
ギルドマスター。なぜ、おれとスゥなんですか?」
「簡単なことだよ。まずスゥだ。彼女は、アリシアの妹さんだろう。その戦剣〈荒牙〉が、そしてお姉さん譲りの勇敢な性格が示している」
スゥは意外そうに言う。
「姉をご存じだったのですか?」
「あぁ、彼女は──いや、アリシアのことはまた機会を改めよう。とにかく、スゥ。君は将来有望な冒険者であり、剣士だ。そして何より、リクの相棒である。そうだろう、リク? ゆえに、君たち二人が選ばれた」
「なんだか、その流れだと、おれが最大の理由のようですが。なんで、おれなんです?」
「君はエレノラの弟子だろう? かつてエレノラは、冒険者ギルドを去るとき、私に約束したんだ」
「約束、とは?」
「エレノラはこう言って、私と約束した。『もうわたしは、世界を救いたくないよ。凄く面倒だから嫌だものね。だからさ次に世界がピンチになったときは、私の弟子を送るから。その弟子を、あなたはこき使って』と」
「……」
ディーンはおれの肩をぽんと叩き、笑みを浮かべた。
「そしてエレノラは約束を守り、弟子である君を、私のもとに送ってよこした。理解してくれたかな?」
……師匠にハメられた。
となりでスゥが、『だから言ったのに』という顔をしている。




