113,あなたの装備品は強制解除しました──。
──リクの視点──
──時は少し遡って。
観客席にいた一万近くの魔物たち。
この魔物たちを阿鼻叫喚に陥らせる策は成功した。
ちょっと成功しすぎて、地味に罪悪感を覚えるレベルで。
近くのゴブリンが、発狂して自分の腹を裂いて、内臓を引きずり出し、食らい出した。
「……第六の型【何がどうしてこうなったのやら】が付与する混乱に、ここまでの効果はないはずなんだが……」
そもそも混乱と発狂は違うし。
しかし……これが師匠の策略だろう。
混乱デバフと暴力衝動デバフ。そこに説明不可能な魔物たちの人体爆裂(これの正体は爆裂傷の持続ダメージデバフだが、そんなことは魔物たちは知らない)。
これらが重なり、拡散し、攪拌されていけば──
そこには狂気が発生するのだろう。
「……さすが師匠。恐ろしい人だ」
魔物たちの阿鼻叫喚を眺めていたラベンダーが不可解そうに言う。
「いや、これ、キミのプランだよね?」
「師匠ならばどうするか、という思考実験の末、導き出したプランだ。よって、この地獄デバフはぜんぶ師匠のせい」
「おお、これが弟子の特権。『すべては師匠のせいにしよう』だね」
いずれにせよ、ここの魔物たちは人類に対して総攻撃を行おうとしていたようだし、ここまでの地獄絵を作り出さざるをえなかったのも、致し方ない。
「だが問題は、まだ残るな──最大の問題が」
「そうだよ、キミ。何よりも、悪魔オルギを斃さないことには、この『位相の異なる世界』からの脱出はできないわけだからね」
オルギは、いまも階段型観客席の中央、闘技大会時は戦闘フィールドとなる場所に、立っている。
魔物たちの阿鼻叫喚に、さすがの悪魔も困惑しているようだ。
というか、悪魔って、ある意味ではハーフディアブロの次に、人類に近いよな。なんというか、元は人間だった亜人よりも。
「で、リクくん。どうするつもりかな? なんか秘策はあるの?」
最終的には、わが相棒スゥに託すことになるだろう。
だがその前に、できるだけオルギを弱体化させたい。それこそがデバッファーの真の役割だよな。
せめて、オルギのドラゴン形態くらいは封じてやりたいな。
そう、あの強力であることは疑いようがない──なぜならばドラゴンだもの。
「……ひとつの考えかたとして──」
「え?」
「形態変化する悪魔からしてみたら、ドラゴン形態というのは、『武装』だよな?」
「武装形態という意味なら、そうかもしれないけどね。何か、意味があるの?」
「よし、分かった。ラベンダー。おれを、オルギの前まで空間転移で連れていってくれ。そのあと、おまえは帰っていいよ」
「キミのことは何となく分かってきた。勝算のない賭けはしない。だね?」
「まぁな。師匠の弟子だし」
ラベンダーの空間転移で、オルギの前まで転移。
すでに発射準備を整えていた《デバフ・アロー》を叩きこむ。
付与するデバフは、ひとつに絞る。一点突破。
第十八の型【忘れ物だよ】
デバフ効力は、装備の強制解除。
解除された装備品は、少し離れたところまで空間転移される。
「ドラゴンは、装備品。ドラゴンは、装備品。ドラゴンは、装備品。ドラゴン、装備品。第十八の型【忘れ物だよ】は、百層まで重ねがけが可能」
あれ。おれ、念仏みたいに繰り返している。
この解釈が妥当と判断されれば、そしてデバフ付与がその耐性を抜いて完成すれば。
オルギが宣告する。
「見よ、下等なる人間!! わがドラゴン形態の、この偉容を!!」
おれは《デバフ・アロー》の発射を終えて、ホッとした。
「『ドラゴン』を装備品と解釈するならば、【忘れ物だよ】のデバフ効果によって『強制装備解除』したとき、どうなるか見ものじゃないか」
瞬間。
オルギの肉体がバラバラに飛び散り、ドラゴンの『抜け殻』が、観客席に突き刺さる。




