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110/115

110,貧乳と女心。

 

『異なる位相世界』というのは──ようは、もとの世界の鏡写しのようなもの。


 もとの歓楽都市ヴィグと同じく、中央には巨大な闘技場があった。


 スゥが胸を張って言う。


「ラベンダーさん。先日行われた闘技大会、優勝者は誰だと思う?」


 ラベンダーはまったく興味がない様子で視線を転じたが、胸を張っているスゥに目を止めて。


「貧乳元気がいい」


「……はぐっ!」


 スゥにとって、思いがけない精神攻撃だったらしい。

 まぁ確かに、豊かな胸とは言わんが。貧乳は言い過ぎなような。というか、ラベンダーも似たようなものだろう。


 とりあえず、スゥを励ますか。


「スゥ。胸は小さいほうが、剣も振りやすい。巨乳だと、邪魔だろ。知らんけど」


「リッちゃんのフォローに愛を感じる。しみじみ」


 と、感動した様子のスゥ。

 良かった、良かった。


 闘技場に近づくと、なにやら騒がしい。

 これは闘技場内から歓声が聞こえてくるのか? 

 そういえば魔物たちがどこに集結しているのか、気にはなっていたが。


「あの闘技場内に、魔物たちが集まっているというわけか?」


 ならば悪魔もいるのだろう。

 種族位階によると、全魔物の上位種こそが悪魔。

 ゆえに、仮に悪魔の中で下位の個体でも、魔物の最上位個体をパシリに使うことができる。


 というわけで、何千という魔物を集めることができるのは、悪魔に違いない。

 この『異なる位相にある歓楽都市ヴィグ』を支配している悪魔、か。


「その悪魔を殺すことで、元の世界に戻ることができるわけか?」


 ラベンダーは右手をひらひらさせて。


「手順その1だよ。そう焦らないの」


「お前のことを一ミリも信用していないことだけは、言っておく」


「あのさ。アタシが、嘘をついたことがある? フライアさんから〈封魔スキル〉を出すときも支援したし」


「しかし、無断でスゥの体内に移譲しただろ」


「細かいことは気にしないの。さ、敵陣に潜入するんだから。アタシたち、人間代表パーティとして、協力していかないと。ちなみに、アタシのスキルは『異空間操作』。短い距離なら、空間転移させることもできるよ。是非とも、キミのパーティの一人として、指示を出してよ」


 ちょっと疑念が生まれた。

 こいつ、異空間スキルの力を使って、自力でこの『位相の異なる世界』に来たんじゃないか?


 つまり、自力で元の世界に戻ることができるかも……


 とにかく動かないことには、何も見えてこない。

 サボりの境地とは、ほど遠いところまで来てしまったものだ。


 闘技場の出入り口には、見張りらしくスケルトンが二体いた。

 スケルトンも元の世界、つまりアーゾ大陸でもメジャーな魔物。


 ただデゾン付近では出現せず、実物を見たのは初めてだが。


 凍結デバフで音もなく始末する。

 それから闘技場内に入り、慎重な歩みで、観客席に出るところまで移動。


 さっと観客席の様子を確認して、なかなかにぞっとした。

 想像よりも多い、魔物たちが観客席を埋め尽くし、熱狂している。


 その歓声を浴びているのは、戦闘フィールド上に鎮座する、銀の爪をもつドラゴン。


「ドラゴンか。最上級の魔物だ」


 スゥが目をきらきらさせて。


「わぁい。ちょっとわたし、感動しちゃった」


 ちなみにエンマは失神三秒前。

 一方のラベンダーはくすりと笑い、


「違うんだなぁ。ドラゴンより厄介なのが、あれだよ」


 ドラゴンの形態が変わり、翡翠の肌をした、異形の人型と化した。


「紹介するね。あれが、このヴィグを支配している悪魔。テオドール公爵だよ」


 スゥががっかりした様子で言った。


「なーんだ、悪魔か」


 たまにスゥの反応がよく分からない。これが女心というものか。

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