106,デバフの怖さは、遅れてやってくるものだ。
再度、スゥが接近戦を試みる。
オロガリア伯爵には、第八の型【敵の攻撃は弱いにこしたことはない】が付与されている。
このデバフ効果は、攻撃力の著しい低下。
それでも、一撃をくらうだけで、人体は破壊されるようだ。
ゆえにスゥは、すべての攻撃を回避しながら、オロガリア伯爵に斬撃を叩きこむ。
「虫けらごときが、焼け死ぬがいい!」
オロガリア伯爵から、火炎が噴き出る。
先ほどスゥは回避したが、その回避行動中に追撃を受けてしまった。
今回、スゥは火炎に果敢に飛び込む。
「わたしはいま、覚醒中! 火炎の渦だって、わたしを止めることはできないよぉぉ!!」
……いや、それはさすがに運を天に任せすぎだろ。
伯爵は嘲笑い。
「バカめ。これは悪魔族の獄炎術がひとつ。この一帯を燃やしつくす。すべて灰燼に帰るがいい!!」
獄炎は広範囲攻撃ということか。このままでは、みなが巻き込まれる。
あいにく、デバフには防御はない……まぁひとつ手はないでもないが……
獄炎の広範囲攻撃が終わったとき、勝ち誇っていたオロガリア伯爵が不可解そうな顔をする。
「なんだ、これは?」
何かといえば、氷の彫像。
凍結デバフで、おれたち三人を凍らせ、獄炎攻撃を耐え抜いたのだ。
まぁスキル発動者であるおれも凍結しているので、自力解除はできない。
が、こんなときに便利な時限解除方法がある。
解除された刹那、隙を見せていた伯爵に、スゥの必殺の〈回転斬り〉が入る。
ついに第十の型【弱らせてなんぼ】が本格的に機能しだす。
付与自体はすでにされていたが、ここにきてようやく、オロガリア伯爵に利いてくるほど、付与層が重ねられてきたのだ。
オロガリア伯爵への『耐性の弱体化』デバフ。
防御力の著しい低下。
さらに同時に付与される第十一の型【弾けとぶときもある】。
スゥの斬撃攻撃をトリガーとして、爆裂傷の持続ダメージが発生する。
オロガリア伯爵の表皮を切り裂き、肉をえぐる。
「な、なんだと!!」
人間に外傷を負わされたことは初めてらしく、驚愕する伯爵。
「ここから畳み込むよ!!」
そこから追撃にかかろうとしたスゥに、ラミアが飛びかかる。
「この人間ごときが、あたしを忘れるじゃないよ!」
そのラミアを、屈辱に顔を歪めたオロガリア伯爵が掴み、握りつぶす。
「……魔物ごときが、われの邪魔をするな」
スゥはいったん距離を取って、おれのとなりに着地。
オロガリア伯爵が、青い血を拭いながら言った。
「よかろう。貴様たち人間の底力は見せてもらった。いまばかりは、生かしておいてやろう。去るがいい」
肩で息をしながら、スゥがおれを見やる。
「あんなこと言っているけど、リッちゃん?」
「せっかく、ここまでデバフ付与層を重ねてきたのにか? さらにデバフは上書きされる。いつか、この悪魔はゴブリンよりも雑魚くなる」
「その前に、わたしがその首を叩き斬るけどね!」
「貴様たち──悪魔を殺すということが、何を意味するか分かっているのか? 気の狂った人間どもか!」
おれたちは血に飢えた冒険者です。
なぜならはいま、おれとスゥは──。
なんども死にかけたせいで、戦闘ハイだから。




