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103/115

103,魑魅魍魎だもの。

 


 ヘカトンケイルがトロールの死体を放り捨てる。

 複数の頭部がそれぞれの方角を向いているので、こちらは発見されないよう細心の注意を払っていた。


 スゥが、なんだかうずうずした様子で言う。


「どうするの、リッちゃん? やるの、やらないの?」


「いや、やらないだろ。見つかってもいないのに、ヘカトンケイルと戦るほど、酔狂じゃないぞ」


「でもさ、凍結とかでいけるんじゃない?」


 ヘカトンケイル・クラスだと、はじめから凍結抵抗とか搭載していてもおかしくないレベル。

 それでも何発も撃ち込めばいけるだろうが、


「しつこいが、そんなリスクは侵さなくていいんだぞ」


 エンマがゴミ箱の蓋を片手にもって、しかりにうなずいている。


「そうです、そうです、そうです、そうです」


 ヘカトンケイルが行き過ぎるのを待ってから、移動を開始。


 しばらくして、どうやら見つかったようだと分かる。

 この『視線を感じる』感覚。


 スゥも気づいており、戦剣〈荒牙〉を構える。

 だが現れたのは魔物ではなく、四人の男女だった。


 それぞれ武装しているが、いまは交戦の意志がないことを示すためか、武器をおさめている。


 そのなかで大柄な男が前に進みでる。


「戦うつもりはない」


 スゥは戦剣を鞘におさめ、おれを見やった。

 この場合、おれが代表者になるのか。


「こちらもだ。おれたちはデゾンの冒険者。リク、スゥ、あっちのゴミ箱に入ろうとしているのがエンマ。おたくは?」


「俺たちは、都市クオから派遣された傭兵だ。ベルナルド。そっちがダート、シー、ソニアだ」


 おれたちは手早く互いに挨拶を済ませてから、情報交換に戻った。


 傭兵たちのリーダーらしいベルナルドが説明する。


「歓楽都市ヴィグ内で、クオ市民が次々と行方不明になっているので、クオ政府から直々に調査を依頼されたんだ。それで手がかりを追っていると、気づけばこんなところにいた」


〈愉悦論の会〉が、クオ市民の消失に関与しているというわけか。

 デゾン市民も、ヴィグに行ってから連絡が取れなくなった者などがいるのだろうか?


 おれはうなずいた。


「こっちも似たようなものだ。〈愉悦論の会〉の会員から手がかりを得て、こっちに来た」


 ベルナルドが意外そうな顔をした。


「〈愉悦論の会〉? それは聞いたことのない組織だな。どうやら、われわれはそこまでたどり着く前に、ここに飛ばされたようだ」


 すると手がかりを追っていたとはいえ、自主的にこっちに来たわけでもないのか。

 まぁ、おれたちも、好き好んでこの『位相の異なる』ヴィグに来たわけでもないが。


 ダートという、小柄な男が苛立たしそうに言う。


「おい、こんなところで長話している場合か? とっとと、こんな不気味な世界、おさらばしたいぜ。おい、冒険者たち。あんたたちは、脱出手段に心当たりはあるのか?」


「あるかもしれない」


 こっちに来たときの棺桶屋が、元の世界に戻る出口になるかもしれない。


 その説明をする前に、路地裏の暗闇から、蛇の尾が伸びてきた。

 そしてダートを捕まえてしまう。


 さらにダートを引き込むと、赤い髪の妖艶な美人が姿を現す。

 美人は上半身だけで、下半身は蛇というわけだが。

 長い舌をぺろりと出して、


「人肉をこんなに見たのは久しぶりだねぇ」


 後ろのほうで、ダートの悲鳴と、骨がへし折れる音がした。それを最後に悲鳴は消えた。


「ヘカトンケイルの次は、ラミアか。魑魅魍魎だね」

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