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102/115

102,弱肉強食だもの。

 

 スゥが周囲への警戒は解かずに言う。


「リッちゃん。ここが〈愉悦論の会〉の会合場所、ということだね?」


「そのようだなぁ。しかし、まさか『歓楽都市』そのものを会合場所にするとは」


 いや、問題はその大胆さよりも方法だろう。

 異なる位相へ移動するというのは、とんでもない超高度な魔法だろう。


 当然、魔法を使えない人間には不可能だが、ハーフディアブロにだって無理だろ。

 それこそ、悪魔族の力でもない限り……。


 あれ。まって。おれたち、もしかして軽い気持ちで、死地に飛び込んだ?


 はじめに敵の存在を感知したのは、スゥだった。


「二人とも、とまって。となりの表通りから魔物の気配がする。こちらはまだ気づかれていないみたいだから、物音をたてないで」


 さすがスゥ。研ぎ澄まされた集中力……または、体内の〈封魔〉スキルのおかげか?


 とにかくエンマが悲鳴をあげると見越して、おれは手で、彼女の口を封じておいた。

 そうして、おれたち三人は路地裏に移動し、魔物がいるという表通りの様子をうかがう。


 スゥの言ったとおり、三体のオークが歩いていた。


 冒険者の仕事は魔物討伐が多いとはいえ、その大半はゴブリン。

 時たま魔狼が出る程度。


 オークといえば、これは魔物のなかでも中くらい。

 いまの時代、おれは実物を見たことがなかった。


 この『異なる位相の歓楽都市ヴィグ』では、オークが平然と歩いているのか。


「どうする、リッちゃん? 先手必勝で片付ける?」


「まぁ、オークが友好的とは思えないし、先んじて仕留めるのが正解かもしれないが」


 うーむ。

 とはいえ、とくに人間を襲っているわけでもないオークを、先手必勝の不意打ちで片付けていいものか。


 迷っていたら、突然、建物のひとつが崩れる。

 瓦礫を吹き飛ばしながら、20メートル級のトロールが現れた。


 とたん、戦闘モードに入るオーク。

 だがトロールが振り下ろした巨大戦斧によって、オークたちが叩き潰されていく。


「オークよりも、トロールのほうが上位魔物だからなぁ。にしても、トロールもはじめて見たな」


「えーと。じゃリッちゃん、オークたちは死んじゃったから、わたしたちの目標は、あのトロールでいいんだよね?」


 血走った目で涎をたらしながら、オークの死体を齧りだすトロール。


 うーむ。あれは先手必勝で殺してもいい感じだよな?


「だな。じゃ、あのトロールを先手必勝で仕留めよう。まずおれが《デバフ・アロー》で」


 路地裏で計画を立てているうちに、次なる動きがあった。


 まず、地響きがあった。

 この地響きがどんどん近づいてきて、周囲に大きな影が落ちる。


 とたん20メートル級のトロールが、巨大な手に鷲掴みにされる。

 そのまま握りつぶされてしまった。


 見上げると、小山でも動いているような、80メートルクラスの巨人。

 多数の巨大な腕と、やはり多数の頭部を盛った異形。


「……ヘカトンケイルか。ここまでくると、神話の中でしか聞いたことのない魔物だな」


 まぁオークもトロールも見たことはなかったが、知り合いが見たとかの次元でなら知っていた。

 ところがヘカトンケイルともなると、太古の世界を闊歩した魔物だ。


 エンマが、いまにも吐きそうな顔色で言った。


「な、な、なんですか。この、オーク→トロール→ヘカトンケイルの流れは???」


 スゥが嬉しそうに言う。


「あ、わたし、知ってる。これこそ、弱肉強食だね?」


「または食物連鎖」とおれ。


「うん、そうそう」


 エンマがウンザリした様子で、


「そういう話で、盛り上がらないでくださいよっ」


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