102,弱肉強食だもの。
スゥが周囲への警戒は解かずに言う。
「リッちゃん。ここが〈愉悦論の会〉の会合場所、ということだね?」
「そのようだなぁ。しかし、まさか『歓楽都市』そのものを会合場所にするとは」
いや、問題はその大胆さよりも方法だろう。
異なる位相へ移動するというのは、とんでもない超高度な魔法だろう。
当然、魔法を使えない人間には不可能だが、ハーフディアブロにだって無理だろ。
それこそ、悪魔族の力でもない限り……。
あれ。まって。おれたち、もしかして軽い気持ちで、死地に飛び込んだ?
はじめに敵の存在を感知したのは、スゥだった。
「二人とも、とまって。となりの表通りから魔物の気配がする。こちらはまだ気づかれていないみたいだから、物音をたてないで」
さすがスゥ。研ぎ澄まされた集中力……または、体内の〈封魔〉スキルのおかげか?
とにかくエンマが悲鳴をあげると見越して、おれは手で、彼女の口を封じておいた。
そうして、おれたち三人は路地裏に移動し、魔物がいるという表通りの様子をうかがう。
スゥの言ったとおり、三体のオークが歩いていた。
冒険者の仕事は魔物討伐が多いとはいえ、その大半はゴブリン。
時たま魔狼が出る程度。
オークといえば、これは魔物のなかでも中くらい。
いまの時代、おれは実物を見たことがなかった。
この『異なる位相の歓楽都市ヴィグ』では、オークが平然と歩いているのか。
「どうする、リッちゃん? 先手必勝で片付ける?」
「まぁ、オークが友好的とは思えないし、先んじて仕留めるのが正解かもしれないが」
うーむ。
とはいえ、とくに人間を襲っているわけでもないオークを、先手必勝の不意打ちで片付けていいものか。
迷っていたら、突然、建物のひとつが崩れる。
瓦礫を吹き飛ばしながら、20メートル級のトロールが現れた。
とたん、戦闘モードに入るオーク。
だがトロールが振り下ろした巨大戦斧によって、オークたちが叩き潰されていく。
「オークよりも、トロールのほうが上位魔物だからなぁ。にしても、トロールもはじめて見たな」
「えーと。じゃリッちゃん、オークたちは死んじゃったから、わたしたちの目標は、あのトロールでいいんだよね?」
血走った目で涎をたらしながら、オークの死体を齧りだすトロール。
うーむ。あれは先手必勝で殺してもいい感じだよな?
「だな。じゃ、あのトロールを先手必勝で仕留めよう。まずおれが《デバフ・アロー》で」
路地裏で計画を立てているうちに、次なる動きがあった。
まず、地響きがあった。
この地響きがどんどん近づいてきて、周囲に大きな影が落ちる。
とたん20メートル級のトロールが、巨大な手に鷲掴みにされる。
そのまま握りつぶされてしまった。
見上げると、小山でも動いているような、80メートルクラスの巨人。
多数の巨大な腕と、やはり多数の頭部を盛った異形。
「……ヘカトンケイルか。ここまでくると、神話の中でしか聞いたことのない魔物だな」
まぁオークもトロールも見たことはなかったが、知り合いが見たとかの次元でなら知っていた。
ところがヘカトンケイルともなると、太古の世界を闊歩した魔物だ。
エンマが、いまにも吐きそうな顔色で言った。
「な、な、なんですか。この、オーク→トロール→ヘカトンケイルの流れは???」
スゥが嬉しそうに言う。
「あ、わたし、知ってる。これこそ、弱肉強食だね?」
「または食物連鎖」とおれ。
「うん、そうそう」
エンマがウンザリした様子で、
「そういう話で、盛り上がらないでくださいよっ」




