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101/115

101,棺桶屋。

 

〈キー〉であるピースが対応する区画に向かう。

 そこは歓楽都市にあるまじき寂れたところで、こじんまりした棺桶屋があるだけ。


 無人らしく、店内には誰もいない。

 蜘蛛の巣まで張っている始末。


「棺桶二つ……」


 あれ、わが推論、間違ったかなぁ。

 どこにも会合場所に続きそうな秘密の扉とかない。


 試しに二つの棺桶の中を確かめてみたが、片方は空っぽ。

 もう片方は、なんか子ザルの死体が入っていた。


「なにこれ、寒気がしてきた。寒気が」


 スゥが揺るぎない信頼の眼差しを、おれに向けてきた。


「リッちゃん、ここで会合が開かれるんだね」


 対してエンマが、


「いえ、これはどう見ても、リクさんの推理が間違っただけでは?」


 うん、おれもそう思う。

 ところがスゥが、


「そんなことないよ、エンマちゃん。冴えているときのリッちゃんの推理には凄みがあるんだから。今回も、間違いなくここが当たりに違いないよ」


「……」


 この流れ、「やっぱ違ったみたいだから再考しよう」とか、口が裂けても言えない。


「もしかすると、この子ザルの死体に何かヒントが……」


 持ち上げたら身体がぽきっと折れて、腐敗した死体が崩れた。


「……なんもなかったね」


 遠くで歓楽都市の鐘が鳴る。

 ふいに〈キー〉が熱を持ちだし、おれはポケットから取り出した。掌で転がすと、〈キー〉に眼が開いている。この片方だけの眼と、目があった。


「いよいよ、ホラーか?」


 瞬間。周囲の空間が鳴動しだす。

 世界が揺れ出した感覚。

 とにかく異常な状態であることは間違いない。


「な、なんだ?」


 スゥが戦剣〈荒牙〉を抜き、四囲へと鋭い視線を向ける。

 一方のエンマは、「もうこんなのばっかですよ!」と叫びながら、棺桶テーブルの下に潜り込んだ。


 さらにホラー展開とばかり、子ザルの死体が笑い出した。


「……ここから出たほうがいい気がしてきた」


「同感だよ、リッちゃん」


 棺桶テーブルの下からエンマを引きずり出し、スゥとともに棺桶屋の外に飛び出る。

 このときも空間の鳴動は激しさを増していた。

 だが棺桶屋を出たあたりで、異常な空間鳴動は、はじまったときと同じように急に終わった。


「なんだったんだ?」


「地震みたいな自然災害じゃなかったよね? 魔法かな?」


 タイミングとしては、まず〈キー〉に『眼』が現れて……

 いやその前に、歓楽都市の鐘が鳴ったんだ。あれは時刻を知らせていたわけだから。


 事前に決められていた時間に〈キー〉が反応したのか。

 つまり、定められた時間に、〈キー〉を所持して、定められた場所である棺桶屋にいる必要があった?


 その結果は、なんだろう?


「……リッちゃん、なんか空が、凄いことになっているよ?」


 見上げるまでもなく、空が真っ赤になっているのが分かる。

 そして歓楽都市ヴィグの空気感そのものが変わっている。繁華街まで移動しても、人っ子一人いない。


「どうやら、異なる位相の歓楽都市ヴィグに来てしまったようだ」


「どういうこと?」


「別世界のヴィグに移動した、ということだよ。さっきの棺桶屋が入口で、空気が鳴動していたのが、まさしく『移動中』の様子だったんだな」


 とりあえず、おれの推理は正しかったらしい。

 良かったー、のか?


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