100,ピースを埋めよう。
いったんデゾンに戻り、ギルマスに〈キー〉を入手したことを報告。
ついでに亜人たちとの一件も知らせておいた。
ギルマスのディーンは、なぜかくたびれた様子で、うなずく。
「そうだったのか。しかし、さすがは君たちだ。ほかの冒険者だったならば、不幸な誤解から亜人たちとの戦争に突入していたかもしれない。いや、リク。君が、盗人たちを処刑したことは正しい判断だった。これがデゾン市民でなかったら、少しばかり厄介なことになっていたかもしれないが。それでも道義的には正しい」
『処刑』とあらためて言われると、けっこうビクつくが。
「……感謝します。ギルドマスター。なんだか、疲れている様子ですけど。何かありましたか?」
ディーンは眉間をマッサージしながらうなずいた。
「実は、つい先ほどまで、エレノラが来ていたんだ」
「え、師匠が?! あの出不精の師匠が、わざわざ」
しかし、はじめて師匠と会ったときも、このデゾン内だった。
弟子として師匠の家に居候しているときは、一度も〈暗闇荒地〉を出なかった師匠だが……
「師匠は一体なにをしに?」
「中立都市レグで、君たちはエレノラから支援を受けただろう? その件だよ。エレノラは、『たかが人間ごとき』の敵と戦うのに、自分が手を貸さねばならなかったことに納得していない。それで、なぜか弟子の君たちにではなく、私に嫌味を連発しにきた……なぜかエレノラは、こういうときだけはサボらない」
「確かに。……なんというか、お気の毒に」
「ありがとう」
お疲れのディーンを残して、おれ、スゥ、エンマの三人は執務室を出た。
スゥが、エンマの腹部をさすりだす。なんの意味があるのか、エンマもきょとん顔だ。
「何をしているんだ、スゥ?」
スゥは、おれに向かってウインクしてから、
「ふふふ。エンマちゃんのお腹が膨らんでいないことを確かめているんだよ。ほら、寄生型の蟲が、知らない間に入り込んでいると困るでしょ? たとえば子宮とか」
とたんエンマが絶叫。
「ぎゃぁぁぁぁ蟲が、わたしの子宮に、ぎぁぁぁぁ!! 切開しますぅぅ!! 誰かナイフぅぅぅぅ!!」
そして走り出す。
スゥが慌てて追いかける。
「ご、ごめん、冗談だよ! エンマちゃん! 悪気はなかったんだ! エンマちゃぁぁぁん、ごめんなさぁぁぁぁい!」
「……なにやってんだ、あいつら」
エンマを落ち着かせてから、おれたちは歓楽都市ヴィグに向けて出立。
一晩くらいデゾンで休んでも良かったが、どうせやらなきゃならないんだから、さっさと終わらせてしまおう。
途中、夜になったので、街道沿いにある宿で一泊。
翌日にはヴィグに到着。
この道中に、おれは〈キー〉の使いかたを見つけだしていた。
〈キー〉の形状は、パズルのピースを思わせる。だが実は、№252の死体から入手したときと、形状が地味に変わっている。
いつ変わったのかは分からないが、このピースには、自動で形状変化する仕組みがあるようだ。
「思うに、正しい縮尺の地図があれば……」
№252の自宅に向かう。
前に家捜ししたとき、使い古されたヴィグのMAPがあったのを思い出したのだ。
そのときは、地元民でも地図を使わなきゃ迷うようなところなんだな、くらいにしか思わなかったが。
「どうするの、リッちゃん?」
「この地図、うっすらと線が走っているだろ。まるでパズルの枠線のように。しかも、どれも同じ形状ではない。つまり、この〈キー〉が当てはめることのできるMAP上の位置に、現在、〈愉悦論の会〉の会合が開かれている──または会合場所への入口がな」
「すごい、リッちゃん! 冴えてるね! ダンジョンで頭ぶつけた?」
「……最後の一言は余計だろ」




