10,決着。
──「デバフのいいところは、重ねがけも連鎖も可能ということ。つまり、それだけ楽して勝てぇる!」
とは、師匠の教え。
なるほど。確かに、『ビー玉ひとつにひとつのデバフ効果』では、この連鎖反応はなかなか起こしづらい。
ということは、スゥの剣にデバフ発動準備を大量にかけ、それが敵に斬撃を与えることで発動する、という流れ。
これ、理想的なのでは?
とくにおれは戦わなくて済むという。
別にサボっているわけじゃないんだ。おれが前線に出て殺されてでもしたら、せっかく敵にかけたデバフが、すべて解除されてしまうからな。
「師匠、これがデバッファーの極みですね」
デバフ祭りと化したゴブリンの群れは、混沌に陥った。
もともと指揮官らしき存在はいなかったこともある。
スゥは拡散で凍結状態となったゴブリンたちにトドメを刺すのは後回しにし、まだ動けるゴブリンたちの中へと斬り込んでいく。
聖騎剣術は、もとはパワータイプのアタッカーが開発したもの。
大剣を振り回すことが前提となっていたのを、スゥが自身の華奢な身体でも適応できるよう調整したものだ。
そんな聖騎剣術を駆使し突き進むスゥ。
そのまわりでは、斬り殺されるゴブリンたち。実は、それらのゴブリンたちにも、何かしらのデバフはかけられている。
ただ一撃で殺されているので、たとえば減速デバフはかかっていても、意味はなかったりする。
そう考えると、やはりデバフの真価が発揮されるのは、ドラゴンみたいな超強敵なんだよなぁ。
ただ、デバフ拡散が起こるたびに、まだ生きているゴブリンたちにもデバフはかかっていく。
先ほどの減速デバフも、スゥが直にかけたゴブリンは、その一撃で仕留めている。
さらにデバフ拡散効果によって、その後ろに控えていたゴブリンたちの敏捷性ががくんと落ちる。よって、スゥがその首を刎ねやすくなる、というわけだ。
「順調そうだな。しかし何かを忘れているような」
そうそう、魔術師ゴブリンだ。
そいつは浮遊魔術も会得しているようで、ぷかぷかと浮いている。
まぁ、デゾン都市の城壁を超えるほどには上昇できないから、下水道を通ってきたのだろうが。
とにかく魔術師ゴブリンは10メートルほどの高さから、スゥに狙いをつけている。
魔杖で。
まずいな。スゥは目の前のゴブリンたちを斬り殺すことで忙しい。魔術師ゴブリンに気付いていない。
「任せろ、スゥ。援護してやる。どうにかして──」
デバフ攻撃で、空を飛んでいる奴を落とすには──
「なんでもいいや!」
ビー玉を投擲。浮遊中の魔術師ゴブリンに当たる。
『物理攻撃』の発動条件が満たされる。
デバフ殺法:第四の型【冷たいものは冷たい】が発動。
ここで復習。
第四の型の効力とは──そう、凍結状態。
凍結した魔術師ゴブリンが落下。
さらに落ちた衝撃で、凍結状態のままバラバラになった。
「おー。こういうのも、万有引力デバフ、といえるのかもな」
その後。
返り血にすっかり染まったスゥが、戦剣〈荒牙〉の血を払ってから、鞘におさめる。
そのまわりは、ゴブリンたちの死屍累々。
厳密には何体か投降したので、ロープで縛ってある。
武器を捨てたゴブリンまでは斬り捨てないのが、スゥの冒険者道。
スゥがこちらを振り返って、にっこり微笑んだ。
「リッちゃん、わたしたち、やったよ!! デゾンを救ったよ!!」
「あー、本当だな。正直、やれるとは思わなかった。いい仕事をしたな、スゥ」
「リッちゃんもね!」
これ、ボーナス支払われるかな。




