1,仕事したくない。
冒険者はランク制。
ランクが高いほうが待遇が良い。
ようは高給取り。
最も低いランクだと、たいしてお金が入らない。
それでも家賃の支払いとかはできるので、無問題。
そう思っていた時期、おれにもありました。
「え、冒険者ってクビになることあるの?」
冒険者って、炎上するようなことさえしなければ解雇されない職だと信じていたのに?
朝食の鹿肉ステーキを食べながら、幼馴染であり同僚でもあるスゥが、「え?」という顔をした。
ところで朝からよく食うね。
「知らなかったの? というかリッちゃん。当たり前のことだよね。働く者食うべからず」
「いや働いているんだよ? おれだって、働いているんだよ」
「ふーん。先月、ゴブリン何体討伐したの?」
「二つ、言わせてもらうぞ。まずひとつ。ゴブリン討伐数でマウント取るの、もうやめないか? それと聖騎剣術を会得したお前と違って、おれは戦うのが、えー、得意ではない」
「ならどうしてアタッカーになったの?」
冒険者には、主に三つの役職がある。
アタッカー、タンク、ヒーラー。
実はほかに、精霊を召喚するアルケミスト、死者を使役するネクロマンサーもいる。
が、この2種類については、才能もそうだが、どこそこの一族が術法を独占しているので、一般的ではない。
話を戻すと、ヒーラーは回復スキルを使えなきゃダメ。
おれは回復スキルを持ってない。
となると残りは、アタッカーか、タンク。
思ったね、おれは。タンクとか、あんなヘイト集めて攻撃受けるなんて、マゾじゃなきゃできない。
「消去法だな」
「……なんで冒険者試験、受かったの?」
「試験を受けたパーティ内に、訳のわからない化け物がいたから」
冒険者の試験は〈魔月穴〉というダンジョンの第十層までの探索。
ただしソロでは危険と、その年の受験者でパーティを組んで臨んだ。この組み分けは、クジ。
で、同じパーティに、異常に強いアタッカーの少女がいてくれて、彼女がぜんぶのダンジョン魔物を撃破してしまった。
ようはおれが試験に合格したのは、運。
「あとは一生安泰だと思っていたんだがなぁ」
スゥは溜息をついて、完食した食器を重ねた。
「とにかくね、リッちゃん。冒険者は人類都市の安全を守るためにいるの。わたしたちは、この人類都市デゾンを守るために存在する。冒険者が人類を脅かす魔物を討伐することで、デゾン市民は安心して暮らせる。だから魔物の中でも最下層のゴブリン一匹狩れないようじゃ、冒険者はやっていられないというわけ」
「つまり、このまま解雇されろと?」
スゥは、幼馴染だからこそ出せる、諦観の眼差しを向けてきた。
「リッちゃんは、向いてないんだと思うよ。昔から、争いごとは苦手だったし。ほら、ガキ大将にいじめられていたときも、わたしが助けてあげていたし」
「それはガキのころの話だろ。まぁ今だって、お前に喧嘩で勝てるとは思わないが」
「わたし、冒険者の中じゃ、弱いほうだよ。まだまだ修行が足りないんだから。そんなわたしに、歯が立たないようじゃ……リッちゃん。悪いことは言わないから、冒険者を辞めるときだよ」
それだけ言うと、スゥは行ってしまった。
一人、取り残されたおれは、来月から就活するかなぁ、と嘆いていた。
「お困りのようだね」
と、近くから声をかけられた。
ふと視線を向けると、隣のテーブルで、一人の同年代の女性が、コーヒーを飲んでいる。
亜麻色の髪を肩のところで切りそろえた、端麗な顔立ちをした、小柄な女性。
なぜか分からんが、ただものではないオーラを感じる。
「あぁ、おれたちの会話、聞こえてました? すみません、迷惑でしたかね」
「まぁ、そんなことはいいんだけど。冒険者なのに戦えなくて辛い、ということかな?」
「まぁ辛いというか、仕事できなさすぎて解雇されるというか」
「私が、冒険者として活躍するすべがあると言ったら、あなたはどうする?」
この人、何ものだろう。もしかすると剣術とかの達人か?
〈魔月穴〉ダンジョン探索時に無双していた受験者の子も、おれと同年代の、華奢の女の子だったし。強さは見た目じゃ分からん。
「あいにくですが、おれは戦闘とか、ほんと向かないんですよ」
「戦闘? そんなのは、ほかの者に任せておけばいいんだよ」
「魅力的な提案ですけど。それだと仕事していないと、クビになるんですよ」
すると、その女性は魅惑的な微笑みを浮かべて。
「デバッファーというものを知っているかな?」
「デバッファー…………」
はじめて聞くが、なんとも魅惑的な単語。