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7. (あれ? 何だか……)

(ティアさん、機嫌が良さそうだ。さっきはちょっと様子が変だったけど……水浴びが好きなのかな、やっぱり女の子だもんな)


「じゃあティアさん俺は向こうで見張りしてるから」


「いえ、やはりここはリーダーが先かと」


「えっ俺? 俺はティアさんのお陰でそんなに汚れてないよ」


「いいから早く脱いでください。大丈夫です、すぐ済みますから」


「ははは、何言ってんの。俺は水浴びしないって」

 

「え」


「あっもしかして覗きの心配してる? 安心して、絶対覗かないから。そんな事でティアさんの信頼を失いたくないし」


「むしろ堂々と見てもらって構わないんですが…………いや、え? リーダーは水浴びしないんですか?」


「うん、いくらこの辺りに危険な魔物が少ないとはいえ、流石に二人が交代で水浴びしてる時間はないよ。俺は着替えもないしね」


「では服は? 脱がないんですか?」


「え、う、うん。そりゃまあ……」


「……ん? え? では何のために湖へ水浴びしに来たんですか?」


「え? だから湖で水浴びをするために……あれ? 俺なんかおかしい事言ってる?」


「でしたら、年貢は? いつ納めてくれるんですか?」


「ね、年貢? ごめんティアさんが何言ってるかよく分かんないや……」


「…………」


「え、えっと……あの……」


「はあ…………リーダー。楽しいですか? そうやって乙女の純情を弄ぶのは」


「え、いや、ご、ごめん。よく分かんないけど本当にごめんね」


「もういいです。私が水浴びをするので、せめてそこでじっくり見ていてください」


「う、うん。じゃあ見張りしてくる。…………ちょっ、え、何? 何でついて来てるの? 湖あっちだよ?」


「今から服を脱ぎますので」


「だから何でついて来るの!? ティアさんさっきからちょっとおかしいよ!? 俺向こうで待ってるからね!!」


 そう言って男は足早に離れていく。

 

 ティアは暫く男が走り去った方角を向いたまま立ち止まっていたが、男の戻ってくる気配がない事を悟ると再び湖へと歩いて行った。

 返り血で汚れた服を乱暴に脱ぎ捨て、髪を結い、冷たい水の中に入ると、男が十分に離れている事を確認して少女は魔法を唱え始めた。


「【消音】」

 

 すると男の居る方から聞こえていた動物の鳴き声や風の音などの環境音が消え、周囲には川に流れる水の音だけが響いていた。

 

 少女は顔を上げ、山へ向かって叫んだ。


下着(パンツ)ッ!!!!」


 空間を切り裂くような咆哮は誰の耳に届くこと無く、山の中を駆け抜けていく。


「そこで見てろって言ったッ!! 見張りの事じゃねぇッ!!」


 堰が切れたようにバシャバシャと暴れながらに身体を洗う。


「覗きに来いッ!! さっさと手ェ出せッ!! めちゃくちゃにしろッ!! 下着(パンツ)よこせッ!!」


 息を切らしながら全身を洗い流し、気持ちを落ち着かせるように大きく深呼吸する。


「すぅ……ふぅ……」


 水浴びを終え、湖から出ようとした時に気付く。


「ぁ……着替えが」

 

 タオルと着替えを荷物と共に置いてきてしまった。

 

 少し悩んだ後、いっそ男の前に裸で飛び出してやろうと湖から身体を出した時に、森の方から何かが近づいて来る気配を感じて、サッと岩陰に隠れる。


(あれは………………リーダーッ!? まさか本当に覗きに来てくれた……!?)


 男は周りをキョロキョロと見渡しながら、隠れるように近付いてくる。

 

 ティアは期待と興奮によりフーッフーッと荒くなる呼吸を何とか抑えて男の様子を見ていると、手に何かを持っているのに気付く。

 男は丁寧に折り畳まれたタオルと着替えを持って湖の方を極力見ない様に移動し、ティアのいる岩陰の前まで来た。

 そしてタオルと着替えを綺麗な岩の上に置いた後は、足音を出さない様にすぐさま来た道を戻っていった。


 男が走り去った後、岩陰のからスッと立ち上がったティアは、暫く空を眺めた後、無言で身体を拭き、着替えに手を掛け、今日一番の声量で吠えた。


「好きッ!!!!」


 透き通るような少女の声は山彦のように反響し、風に運ばれ綺麗な青い空へ消えていった。

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