献誌3
翌日も、翌々日も、そのまた次の日も、彼女は以前と変わらず屋上にきた。
きて、漫画を読み、読み終えた漫画を山のように積み上げていく。
もちろん、僕のことなんか見向きもしないし、漫画を貸してくれるわけもない。
まあ、漫画については今この場で、黙って山から取っても何も言われないだろう。好都合なことに僕は無視されている。いないかのように、扱われているのだから。
でも、それをするのはちょっと違う。彼女の許可なしに、漫画を読むのは罪悪感がある。良心が痛む。
そもそも、彼女はどうしてこんなことをしているのだろう。
以前のように、読み終わったらカバンにしまって持って帰ればいいのに。どうしてわざわざ、こんなことをする?
初めは僕への当てつけかと思っていたが、どうもしっくりこない。
というのも、彼女は雑誌をキッチリと積み上げていたのだ。上辺をフェンスに合わせて、上と下の雑誌がズレないようにピッタリと、丁寧に積み重ねた。細心の注意を払うようにしていた。
もし、彼女が当てつけを目的としていたら、こんな丁寧に雑誌を積むだろうか? ――むしろ雑に放り投げそうな気がする。
だから余計に理解できなかった。
僕は痺れを切らして訊いてみた。
『ねえ。何でここに積むの? 僕への当てつけ? それとも仏様にお供物でもしてるの?』
「……」
やっぱり無視。
なんか、ここまで無視をされ続けると、いよいよ本当に、彼女が僕を認知していないんじゃないかと思い、途端に怖くなった。
いや、分かってる。そんなことはあり得ない。
たしかに、ステルス性能の高い僕だけど、決して透明人間なわけじゃない。SFの世界じゃあるまいし、『ある日突然、世界中の人から見えなくなっちゃった』なんていうことは絶対にない。
だから、おそらく彼女は僕に腹を立てて、無視を続けているのだろう。――そう考えるのが妥当だし、それ以外考えられない。
ただ、人間一度思考してしまうと、考えが頭に残ってしまうというもので、特に恐怖というのは根強い。
怖い。僕一人、世界に存在していないかのようで、とても恐ろしくなった。