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献誌  作者: れおすぎ
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献誌1

 幼馴染から無視されるようになった。

 いや僕に限って、無視されるなんてことはあまりに日常茶飯事で、なんら珍しいことでもないのだが、それでも唯一、一人だけ、僕と接してくれていた幼馴染に無視されるようになったということは、いよいよ僕は死ぬべきなのかもしれない。

 小中ときて、高校でも変わらずボッチを貫いてきた僕はあまりにクソ野郎で、社会不適合者なのだろう。家族も僕のことなんかまるでいないかのように扱っている。

 けれど、彼女だけは違った。孤独死ルートまっしぐらな僕を同じ人間として、対等に扱ってくれた。――なんて優しいのだろう。なんて懐が深いのだろう。なんて人格者なのだろう。

 そんな聖人みたいな彼女に、無視をされるようになったのだから、僕はとんでもないクズで、呆れるほどのアホで、救いようのないバカなのは、もはや自明の理だった。――生きている価値もない。今すぐにでも死ぬべきだ。

『ねえ、無視しないでよ』

 登校中、学校までの道すがら、僕は斜め前をマイペースに歩く彼女に問いかけた。――彼女の歩くペースは僕より少し早い。

「……」

 やはり無視である。

『ねえ、本当は聞こえてるんでしょ? もうこうして数日は経つよ? 何の遊びか、それとも嫌がらせかは知らないけど、そろそろ飽きてきた頃なんじゃない?』

「……」

『あのねぇ、いくら僕が誰からも相手にされない空気人間で、無視され慣れているからといって、君からも無視されたら、僕はいよいよ誰からも認知されなくなっちゃうよ。実の親ですら、僕を無視するんだから』

「……」

 やっぱり無視。

 僕の気の利いた(?)自虐ネタにすら、彼女は眉一つ動かさなかった。

 元々、仏頂面でほとんど感情の起伏がない彼女だが、僕を無視してからというものの、それが顕著だった。

 まったく表情が動かない。僕がこうして一方的に話しかけているにも関わらず、目線すら動かない。――まるで、本当に僕を認知していないかのようだった。

『ねぇ、さすがに僕でも傷つくんだけど……』

「……」

 何故、彼女が僕を無視しているのか。

 理由は簡単だ。

 先日、僕らは喧嘩をしたのだ。喧嘩も喧嘩、大喧嘩。およそ知性を持つ人とは思えない、激しい誹り合いだった。

 物心ついた時分から一緒にいるが、こんなことは初めてだった。

 いや、些細な言い争いというか、主張のぶつかり合いはあった。特に分別のつかない幼稚園生の頃は、そんなのがしょっちゅうだった。

 だけど、こうして年齢を重ねて、ある程度自意識が確立されてから、あそこまでの大喧嘩は文字通り初めてだった。むろん、彼女から無視されるというのも、初めてだった。

 キッカケは本当に瑣末なことだった。今冷静な頭で思い返せば、くだらなくて、バカバカしくて、どうしてあんなにムカついてしまったのか理解できないほどだった。

 でも、当時の僕はどうしてもそれを見逃すことが、看過することができなくて、思わず口が滑り、心にもない、心ない言葉を彼女に浴びせてしまったのだ。

 それがトリガーになって互いに売り言葉に買い言葉の応酬。途中から怒鳴り合いにまでなった気がする。

 あまりに頭へ血が上り過ぎてしまって、記憶をすっ飛ばしてしまったために、それからどうなったのかは、まったく覚えていない。――掛け値なく、本当に少しも、その後の記憶がゴッソリと抜け落ちていた。不自然なくらいに。

 そして気がつけば、僕は彼女に無視されていたわけだった。

 詳細は覚えていないが、とにかく、彼女がこうして僕を数日間にわたって無視し続けているのは、その大喧嘩が理由に違いなかった。

 もっというと、僕の心ない言葉が、彼女をここまで頑なに無視させ続けていた。

 とはいえ、もうあれから数日が経つというのに、まるで僕を見えていないかのように無視し続けるというのは、いかがなものか。

 いや、僕も悪いとは思っている。

 だってそもそも、喧嘩の原因は明らかに僕なのだから、それについては釈明の余地などないし、大いに僕が悪い。百パーセント僕のせいだ。

 けれどやっぱり、こうも存在しないかのように無視され続けると、僕も少しは頭にくるというもので、こちらから謝ろうという気も薄れてしまう。喧嘩の原因を作っておいて、こんなことを思うのは筋違いかもしれないが、せっかくこちらから身銭を切ろうと思っていたのに、その気持ちを呆気なく折られてしまった。

 出鼻をくじかれたというか、門前払いにされたというか、とにかく彼女は断固拒否の構えだった。

 どうしたものか……。

 内心ため息をついたところで、学校に、到着してしまった。

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