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ペルシャの友人  作者: 永岡萌
第1章 1976年 テヘラン①
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第4話 テヘラン大学での講演①

 東アジアのとある国では「因果応報」ということわざがある。良いことをしたら回り回って良い結果が返ってきて、悪いことをすれば回り回って悪い結果が返ってくる。元々は仏教用語とのことだが、彼の国の人々の考え方に深く染み込んでいると言う。なぜそのようなことをいうのかというと、この俺の日頃の行いが報われるイベントが発生したからだ。サンキュ、ジーザス!


 ただいまの時間は午後三時。お国はイラン。場所はテヘラン大学。風格あるレンガ色のキャンパスがそびえ立っていた。そう、ちょうどあの子のライブの時に、アメリカ国務省の講演会の仕事があったのだ!


 頭の中はアフターファイブで占められているも、ケチをつけられないように熱心に仕事をしていた。今は講堂の中で「外交官の仕事とは何か」という内容でトークを実施していた。プロジェクターを操作して資料を写しつつ、スピーカーの話を興味深く聞いていた。


「さて、外交官の仕事というのは『駐在国と仲良くなって一緒に頑張ろう』と一般的に思われています。半分は正解で半分外れです。外交の目的としては『武力ではなく交渉によって、国家間のフリクションを解消すること

』です」


 覚えておいてくださいという風に、いったん教室を見渡した。


「よって私たちは可能であれば友好的な関係を維持して、和やかに問題解決を図ろうとします。これが外交の仕事の半分になります」


 話し手はコリン先輩。先日のダラシない大学生の雰囲気は消え失せ、アメリカ合衆国を代表する駐イラン大使の顔になっていた。話し方も特に穏やかで、けれども芯が通っている。


「……」


 先輩に相対するのはテヘラン大学生。みなさん熱心に話を聞いていらっしゃる。その目はなんでも吸収しようとするエネルギーに溢れ、逐次ノートにメモを取っていた。。その姿はアメリカのキャンパスを思い起こさせ、少しだけ懐かしく感じた。


「さて、では残り半分は何かと言いますと。みなさんのことなので薄々察しているとは思いますが。やはり我々は何のために働くかというと、アメリカ合衆国の利益を確保するためです。友好関係を築いて駐在国とウィン・ウィンになれればいいのですが、お互いの利益が相反して退っ引きならない状態になれば汚い行動に出る必要に駆られます。国家元首を詰める、お金をかけて脅す、他国を巻き込んで吊し上げる、などの手段を講じることになります」


 側から聞いてるとイランの人たちの反感を買うのではヒヤヒヤしたが、そこは大学生。彼らは緊張しつつも気後れせず、まっすぐ先輩を見て聞いており、何人かは微かに頷いていた。それを見て先輩は口調をゆるめて、


「まあ、私たちがイランに駐在している間は、仲違いの不幸には見舞われないでしょう。蜜月と呼べるほどの親密な関係となっているので、ウィン・ウィンな状態が続くと思われます」


 そう言って、また和やかな空気が戻ってきた。「だよなー」「そうだよなー」「友好国だから当然だよなー」。そんな感想が学生たちの顔に書かれていた。俺自身もこれで講義は良い空気のまま終わるかなと考えていたら、


「特に今の国王モハンマド・レザー・パフラヴィーの改革は素晴らしいものがあります。モサデグ首相のドロドロした頃と比較して経済も上向き、文化の質も向上しています。彼がパフラヴィー朝イランを導いている限り、この国の繁栄は約束されたも当然でしょう」


 さっきのセリフと違って、先輩が自然と口にしたことだろう。演出とかはったりとかではなく、心からの感想と思われる。俺自身、国王の政治の評判はいいと聞くし、ここ数日過ごしてきてイランの発展している空気を肌で感じていたので、違和感を覚えなかった。


 ただ、この国の若者の評価は違ったようだ。先ほど以上に緊張に満ちた表情をした。何人かの学生は憎悪のレベルまでに至り、コリンさんに鋭い目を向けていた。この空気に先輩は気づいたのかしらないが、


「とはいえ政治の評価ってのはなかなか定まりませんからね。人によっては死後何年経っても議論が分かれるくらいですし。国王が今後どうなるかは興味深く見守っていきたいと思います」


 そしてさりげなく次の話に移っていった。学生たちは前と同じように講義を聞き始めたが、先ほどのピリッとした印象が消えないままでいた。

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