透明の口づけ
いるのに。
君はそこにいるのに。
触れられない。
抱きしめられない。
君を抱きしめようとすると、体がすり抜ける。
そこに、いるのに…
触れられない。
君は目を細め、悲しそうに微笑む。
私だって、君に触れたいよ。
すうっ…と。
向こう側の景色が幽かに透けて見える。
僕の恋人。
幽霊の君。
通りすぎないように、君の手に手を重ねる。
ゆっくりと目を瞑る君。
ゆっくり…ゆっくり…と。
通りすぎないように。
君の唇に、僕の唇を重ねる。
感覚はない、けど。
僕の唇に僕以外の体温を感じた…
気が、した…
あなた様の刹那の時を下さり、ありがとうございました。