表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

3.1年後の婚約破棄契約

3.1年後の婚約破棄契約



~セリーヌ=スフォルツ公爵令嬢~


「セリーヌ=スフォルツ公爵令嬢、貴様はパーティの場で我が息子の友人たちが作った料理を犬にでも食べさせておけと言ったそうだな。そのことに申し開きはあるか?」


わたくしと、わたくしのお父様と義妹は王城に呼び出されておりました。


玉座におわすのは国王陛下であり、その脇に立つのは王太子殿下です。


呼び出された理由は、わたくしの発言が不用意にも、王太子殿下のご友人のお心を傷つけたから、というものでした。


しかし、


「確かにそのように申しました。ですが、それだけで婚約破棄とはあんまりではないでしょうか!」


わたくしはそう主張する。


婚約破棄になるほどのことをしでかしたとは思えなかったから当然ですわ。


ついてきた家族たちも当然、それに賛同してくれるものと信じておりました。


しかし、


「黙りなさい! セリーヌ! 王の御前であるぞ! それにお前のしでかしたのはそれだけではない!」


「え?」


わたくしは二重の意味で驚く。


今までどんな時もわたくしを否定しなかったお父様から叱責を受けたこと。そして、寝耳に水の、


「他になにかわたくしがしでかした、と?」


という発言に対してですわ。


何かの間違いでは?


そう思って、わたくしは今度こそ味方をしてくれるはずの義妹の方を見ます。


しかし、義妹は今まで見たこともないほど冷ややかな目でわたくしのほうを見て、


「お義姉様、もう観念なさって。お義姉様が学園でされた悪事、同級生や……それにわたくしに対する嫌がらせなども全て証拠は出そろっているのです。しらばっくれてももう無駄ですわ」


「はい?」


わたくしは思わずあんぐりと口を開く。


確かにわたくしは公爵令嬢として、特権階級の意識をもって生活をしてまいりました。下級貴族はわたくしに仕えるために生まれてきたのだと思っておりますわ。


ですが、


「お待ちになって。下級貴族など顎で使えと口すっぱくお教えになったのはっ……」


「だから黙りなさい! 王の御前だと言っているだろう! それにエルネスカに対するイジメも今まで長女だと思い目をつむってきたが、最近は階段から突き落としたり、推しピンを靴に入れたりなど目に余る」


「ええ!? お待ちになって! どうしてわたくしが家族であるあなたにそんなっ……!」


しかし、わたくしの言葉を遮るように、義妹が声高に言った。


「お父様、いいんです。そのことは。今、家族内のことを申し上げるべきではりませんわ。国王、そして王太子殿下の御前なのですから」


「そうだったな。国王、それに王太子殿下。このたびは我が娘が大変な無礼を働いたこと、平にご容赦願いたく存じます。つきましてはセリーヌとの婚約は破棄。そして、代わりにエルネスカとの婚約を行って頂ければと考えております。そうすれば、我が公爵家と王家の間には何ら確執は生まれません。無論、他の貴族たちがセリーヌを担ぎ上げ内紛の種にする恐れがあります。そのためにも、根源は元から断つべきでしょう」


「お、お父様……。何をおっしゃっているの? 今のはもしかして」


「お前を生かしておくわけにはいかないのだよ、セリーヌ。分かっておくれ。これも国家のためだ」


「そ、そんなことって」


わたくしはおそらく震えていたでしょう。訳の分からない罪のせいで、婚約破棄と言う屈辱のうえに、処刑などという恐るべき罰を愛する家族から言い渡されたのですから。


「そうか、そこまでの覚悟あってのことか」


「はは!」


勝手に話は進んでいく。


義妹も何も言ってくれない。どういうことなの? さっきから訳が分からないわ。あなたをイジメたことなんてないし、お父様にあなたも、わたくしを愛してくれていたのではなかったの? なのに、こんなにあっさりと見捨てるなんて。


「あ、あんまりですわ……」


わたくしは力なくうなだれる。家族に裏切れたショックなどで反論する力がなくなってしまったのだ。


気のせいか、そんなわたくしの様子を見て、義妹は微かに微笑みすら浮かべているように見える。


本当に、どうなっているんだろうか。


今まで、家族に教えられてきた通り、公爵令嬢として相応しいふるまいをしてきただけなのに。


わたくしはこのまま処刑されてしまうのね。


そう絶望に苛まれた時でした。


「ふむ、そなたらの覚悟は分かった。王太子の気持ちもよく聞いている。だが、そなたが懸念した通り、突然の婚約破棄は大きな波紋を貴族間に呼ぶであろう。特に今は隣国との政治的駆け引きが激化しているのは知っての通りじゃ」


「は、はあ」


「へあ?」


国王の言葉に、なぜかお父様と義妹が間抜けな声を上げる。


「ゆえに国王として命じる。王太子とセリーヌ公爵令嬢は1年間の婚約生活の後に、婚約破棄を行うものとする。その後正式に、次女エルネスカ公爵令嬢と婚約を行うものとする」


「そ、そんな!?」


またしても義妹が声を上げる。


「何か王たる儂の決定に不服が?」


「い、いえ。その……(おかしい、こんなはずない……)、あっ、そうです。王太子殿下のお気持ちを考えるととても心痛に堪えません。1年という期間がきっと殿下を苦しめて」


「ふむ。優しきエルネスカ令嬢よ、我が息子の心配をしてくれているのだな。その事には感謝する。だが」


国王は厳しい声で、


「今、この時期に内部争いをしているような隙をいささかも見せることは許さん! 元々公爵家との婚姻もそのためのもの。婚約破棄を性急に行えば、すべての苦労が水泡に帰そう。ハインケル、お前も王太子ならば分かるな?」


「……ええ、もちろんです、陛下。不承不承ながらですが」


「それでよい。では決定をくだす。お前たちの婚約は一旦破棄されない。だが、1年後の今日、この玉座の間にて破棄されるものとする。無論、何か心変わりするようなことがあれば別だがの」


「ありえませんよ」


「そうか。ではそのように決定する。明日よりセリーヌ公爵令嬢は建前上、婚約者として城に住むこと。だが、貴様には将来の王妃としての資格などないし、何の権限もない。せいぜい、おとなしく飼われていることだ。分かったな?」


わたくしは王の決定の前に、ただ首を垂れるしかなかったのでした。






~エルネスカ=スフォルツ公爵令嬢~


ふふふ。


あはは。


あーっはっはっはっはっは!


笑いが止まらないわ。


あのお義姉様の顔!


だらしない体をさらにうなだらせて、醜いったらありゃしない!


よくもあんな体で王太子の婚約者だなんて名乗れたものだわ!


「でもちょっと計画と違ってきたわね。もちろん、大きな違いじゃないけれど……」


それが少し気に入らない。


本当はあのパーティーで婚約破棄のうえに、すぐに彼女の罪状が読み上げられて、処刑がすみやかに、かつひそやかに執行される、というのが、あのルートのラストだったはずだ。そして、義妹わたしが晴れて王太子殿下と結ばれる。


でも、


「あの馬鹿犬!」


わたしは思わず罵倒する。


真っ黒な薄汚れた犬を一昨日、お義姉様は拾ってきた。


そんなイベントはなかったはずなのにな、と思いながらも、わたしは大した影響はないと思ってスルーしていたのだ。


「それがまさかパーティー会場に乱入するなんてっ……!」


本当だったら、婚約破棄とあわせて、わたしとの婚約が発表されるはずだったのだ。


それが既成事実となって、国王としても引っ込みがつかなくなって、迅速にお義姉様は排除され、わたしと王太子の結婚イベントが発生するはずだった。


だけど、あの馬鹿犬のせいで、わたしとの婚約発表がされず、今日の会談という展開になった。


「国王も国王よ! すぐに処刑すればいいのに! 何が1年後の婚約破棄契約よ!」


きりきりと爪を膝に立てる。


だが、その痛みのおかげで、わたしは心を落ち着けて行く。


「まぁ、焦ることないわよね。あの悪役令嬢を絵にかいたようなお義姉様ですもの。1年後には婚約破棄されて処刑か流刑。私が代わりに婚約者になり、将来はこの国の王妃になるのよ、うふ、うふふふふ」


あーっはっはっはっは!


そうよ、焦ることないわ。


今までだって、うまくやってきた。


これからもすべて思いのままよ!


私はお義姉様が自分やお父様に縋る目を向けるのを、あからさまに無視して、先ほど送り出したことを思い出し、唇を歪めて微笑み溜飲を下げるのだった。たった1年間の我慢でわたしがヒロインになるのだからと。






~王太子ハインケル=セントレア~


はぁ、やれやれ。昨日は気の滅入る会談だった。


僕は廊下を歩きながら嘆息する。


噂には聞いていたとはいえ、婚約者セリーヌ=スフォルツ公爵令嬢の悪行は酷いものだった。


その情報はスフォルツ家からもたらされたのだから、間違いないだろう。


特に驚いたのは、ハイネンエルフ公爵令嬢……義理とは言え、自分の妹にまで執拗ないじめをしていた点だ。


もはや彼女が将来の王妃になる資格がないことは明白であり、むしろ事前にそのことが判明して良かったと思う。


ただ、父上のいう通り、今は外交が重要な時期で事を荒立てるべきではない。


1年間の偽婚約生活を送った上で、彼女を海外なり、別の貴族なりに嫁がせるのがいいだろう。


少なくとも、僕が彼女を愛することはないと断言できる。


あのだらしない体に趣味の悪いドレス。人を見下した態度、すべてが癪に障る。


と、そんなことを思って歩いていた時である。


「ふざけないでよ! こんな料理、食べれるわけがないでしょう!」


バリン!!!!!!


激しい音を立てて、皿やグラスが割れる音がした。


あの音の方向はっ……まさか!!


僕はすぐに気づいて走り出す。


まったく初日からこれか!


大方、料理をもっと豪勢にしろとでも難癖をつけたのだろう。


あの悪女は!


お前に使う税金など、1ルビーもないというのに!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ