なんという生命力
猪竜の首に食らい付いたオオカミ竜は、渾身の力を込めた。他の部位に食らい付いたオオカミ竜もそれぞれ、渾身の力で牙を突き立てる。少しでも力を緩めれば容易く弾き飛ばされて一気に形勢逆転するだろう。一方的に攻めているように見えても、実は薄氷を踏むかのような攻防なのだ。そして、今、猪竜に食らい付いている者達が振り飛ばされるようなことがあればすかさず代わりに食らい付き制圧するために、他のオオカミ竜も取り囲んだ。
こうして、互いの全力を振り絞った根競べが数分の間続き、そして、
「ゴギッッ!」
という、湿ったものに包まれた硬いものが折れる音が響き、
「ギヒッッヒッッ!!」
断末魔の悲鳴が上がった。猪竜の悲鳴だった。そしてビクビクと体を痙攣させる。首の骨が砕けたのだ。さらにその中の神経も断たれ、勝負は決した。
さらに油断することなく完全に息の根が止まるまで、オオカミ竜達は力を緩めない。やがて痙攣も収まり、猪竜は完全に死んだ。
が、そう思ってオオカミ竜が離れようと力を緩めた瞬間、
「ギピーッッ!!」
完全に死んだと見えた猪竜の体が猛然と暴れて、オオカミ竜達を弾き飛ばした。なんという生命力。
だがそれは、自身の命を繋ぐ方には働かなかった。無秩序にただ暴れただけで、起き上がることさえできずに、やがて鎮まっていく。そして今度こそ、猪竜は死んだ。
終わってみればオオカミ竜の側には一切の犠牲もない、完勝だった。しかしこれも結局は<運>だっただろう。もちろんオオカミ竜達も努力はしたもののそもそも今回の猪竜が迂闊だったのはただの偶然でしかない。だが同時に、その偶然を引き寄せるだけの努力をしたことも事実ではある。どちらが欠けてもこの結果はなかったと思われる。
結果だけを見るならラーテル竜の時の方が大変だったようにも感じるかもしれないが、そんなものはあくまで表面的な話。今回はたまたま上手くいったというだけ。
オオカミ竜達はそれをわきまえている。だから次も油断しない。
そんな成体達の姿を見て、ジャックは学ぶ。狩りの仕方を。狩りをする際の心構えを。必要なことをこうして<手本>を見ることで学んでいくのだ。
もちろん、ジャックだけでなく他の子供達も。
今回の猪竜がもし成体達の包囲を突破し子供達の方に突っ込んでくれば、多くの犠牲が出た可能性もある。それがなかったのは実に幸いだった。
こうして倒した猪竜を群れで貪り、腹を満たしていく。最初は実際に倒した成体から。そしてそれ以外の成体が貪り、残ったところを幼体達が食らう。
それでも今回は十分な大きさがあったことで、幼体達もしっかりと食べられたのだった。




