大変な好材料
食べ残したオオカミ竜の肉はテチチ竜をはじめとした獣や鳥に食われてしまったようだが、それでも本来の獲物であるインパラ竜やガゼル竜の群れが複数確認できたのは、大変な好材料だっただろう。
とにかくもうこれで焦る必要はなくなったのだ。
この時点で、ジャックの群れは、成体が十三頭。幼体が十七頭となっていた。しかも、インパラ竜やガゼル竜がちゃんといるということは、土竜も狩り尽くされたりしていないということでもある。
だから幼体達は土竜を狩ることもできた。こうして幼体達に獲物を分け与える必要が下がれば捕えたインパラ竜やガゼル竜については成体達で分ければ済む。
本当にそれだけでもホッとできる材料だった。
だが、これで問題がすべて解決したわけではない。
「……」
人間のように分かりやすい表情を作れるはずのないオオカミ竜の顔でありながら明らかに『険しい』と分かる表情をしたジャックが緊張感を漲らせていた。
それほど離れていないところの草むらにオオカミ竜が潜んでいるのを察したのだ。おそらくジャック達と同じように移動してきてここ辿り着いた群れだろう。普通に<縄張り>が確保できていた頃には有り得ないことだった。
こんな近くで他の群れが休んでいるなど。
そう。ジャック達はまだ、<縄張り>を確保できていない。おそらくそれは向こうも同じだろう。縄張りに他の群れが入り込んできたのならその時点ですぐに衝突が起こるからだ。それがないということが、向こうも縄張りを持っているわけではない何よりの証拠となる。
つまりここからは、縄張りを獲得するための戦いが始まるということでもあるだろうか。もしかすると、元々ここに縄張りを持っている群れもいるのかもしれないが、取り敢えず今の段階では遭遇していない。それが幸いだった。何しろ、元からここに縄張りを持っていた群れであればしっかりと獲物を狩れてしっかりと食べられているはずである。飢えで体力が落ちた今のジャックの群れでは、正面切って争えば勝ち目はないかもしれない。無論、追い詰められていただけあって覚悟は決まっているものの、気力だけでどうにかなるなら苦労はない。真っ向勝負ならやはりフィジカルがものをいうのも現実なのだ。
なので今は、とにかく体力を付けるのが大事だった。他の群れと遭遇しても、勝てそうなら勝負も挑むが無理そうならとにかく逃げることを優先する。
そして今回のオオカミ竜の群れは、前者だった。明らかに痩せ細っていて、しかも幼体の姿もない。飢えて死んだか、食われたか……
いずれにせよ、勝てる相手で、かつ向こうもその気であるなら、遠慮は要らなかった。




