強敵
ジャックはこれまで出会ったことのない<強敵>ではあったものの、ジョーカーにとってはどうでもいいことだったようだ。
『邪魔する奴は殺す! どいつもこいつも殺す!! 全部殺す!!』
というだけでしかないのだから。
だからこそジャックも油断しない。しないのだが、こうして相対すると、実に厄介な相手だった。屈強な肉体を持ち強い筋肉を持つことで最高速はジョーカーを上回るものの、こうして至近距離になると、ジャックよりも小さくそして自身の肉体の限界を考慮することなく最大稼働を続けられるジョーカーは、目の前にいるはずなのにとても遠いのだ。
ここまでの衝突で間合いを掴んだのか、ジョーカーがジャックの攻撃を躱してみせるようになっていた。それでいて、ジャックの体を爪で引っかいたり、噛み付いたり、ということができるようになっていたのである。
それぞれは大したダメージでもないとはいえ、ジャックの体からは血がしたたり、痛々しいそれになっていた。
ジャックの仲間達も加勢しようとするものの、ジョーカーの仲間らをジャックに近付かせないようにするだけで手一杯の状態だった。ジョーカーの群れも決して弱いわけではないのである。早々にジャックがクイーンを倒せていたのは幸いだったが、そうでなければジョーカーとクイーンのトリッキーな攻撃に翻弄されて不利な状況に陥っていた可能性も高い。
「……」
けれど、ジャックは冷静だった。ダメージは受けているにせよ、それらはただ嫌な感じがするだけで、別に大した問題ではないのだ。こうしてジョーカーを捉えられないのに自分ばかりが一方的に傷を負わされていることに焦ってしまうと、それがスタミナを奪うことになる。
ジャックにはそれが分かっていた。これも、ラーテル竜とやり合った時に得た教訓だ。
ラーテル竜は確かに強敵ではあったものの、とても小さくて、攻撃そのものは、当たり所さえ悪くなければ成体のオオカミ竜を一撃で死に至らしめるようなものではなかった。そう、油断さえしなければ対処は可能だったのである。
仲間達は焦っている様子だが、それこそが問題なのだ。焦っているから上手く対処ができない。けれど、自分は大丈夫なのだ。先ほどのクイーンも倒せたことで分かった。自分の方が確実に強い。動きにはついていけていないものの、細かい傷は負わされるものの、一つ一つの攻撃そのものには決して恐ろしいほどの威力はない。
だから待つ。自身の恵まれた肉体を信じて。それが必ず勝機をもたらしてくれるがゆえに。




