ラーテル竜
そのラーテル竜は、ジャックの群れの幼体の頸骨を噛み砕き殺しただけでは飽き足らず、他の幼体にも襲い掛かろうとして身構えた。
しかし、その前に立ちはだかる影。
ジャックだった。ジャックが成体達よりも早く駆け付けたのだ。ラーテル竜はそんなジャックに狙いを付けた。最初に食らいついた幼体より明らかに二回りは大きいにも拘わらず。
もっともラーテル竜は、成体のオオカミ竜にも怯むことなく襲い掛かるような習性を持っているので、むしろ当たり前とも言えただろうが。
そして自分目掛けて飛び掛かってきたラーテル竜を、ジャックも牙を剥き迎え撃った。戦うのは好きではないが、相手から襲い掛かってきて命の危険があるとなればその限りではなかった。
優しいだけでなく、勇猛な一面もあるのだ。あくまで非常時においてのみではあるものの。
ただ、ぐわっと容赦なく牙を突き立てようとしたジャックだったが、それでもラーテル竜は強敵だった。おそらくここまで彼が出遭った中では一番の。
「!?」
顎に鋭い痛みを感じつつもガツンと上下の牙を合わせたにも拘わらず、手応えがない。ラーテル竜の体はそこにはなかった。ジャックの顎に爪を立てて自身の体を引っ張り、空中を移動したのだ。
何という身体能力。とは言え、その程度の芸当は、この野生で生きる者ならそれほど珍しくもなかっただろう。
そしてそれは、ジャックにも当てはまる。自分の顎に爪を立ててぶら下がる形になったラーテル竜に気付くと頭を振り、ブチッと自身の顎の肉が裂ける感触を覚えつつもラーテル竜を空中に放り投げて、再びそれに食らい付こうとした。
なのにラーテル竜の方も、今度は後脚てジャックの牙を蹴って跳び、間合いを取った。だがその先には、また別の牙が。
成体のオオカミ竜が駆け付けたのだ。
「ギイッ!!」
オオカミ竜の口の中に飛び込む形になったラーテル竜が声を上げる。成体のオオカミ竜の牙が肉に食い込む。が、それ以上は食い込んでいかなかった。
というのも、<ラーテル>の名を与えられている通り、ラーテル竜の皮は非常に柔軟かつ強靭で、自分よりはるかに大きな肉食獣の牙さえ容易には通さないほどのものだったのだ。
それはまるで人間が革靴を噛み切ろうとでもするかのようなものだったかもしれない。
だから完全に捕らえられているというのに致命傷にはならなかった。なのでラーテル竜を捕えたオオカミ竜は一度口を開き、改めて勢いをつけて食らい付こうとした。そこに他のオオカミ竜も加わり、頭側と胴側、同時に食らいついたのだった。