巣立ち
こうして子供達を大切にしていたジャックではあるものの、やはり自分の群れで育った雄については、基本的に巣立ってもらわなければならない。でないと近親婚が増えてしまい、問題が生じる可能性が高くなるからだ。
ジャックも、<近親婚のリスク>という意味でそれを捉えていたわけではないものの、不思議と『そうしなければならない』という衝動が自らに湧き上がり、焦燥感にも似た気持ちがあるのは承知していた。
だから、自分の<弟>や、かつて群れが分裂した時にはまだ生まれて一年くらいだった雄達を、群れから追い出すため、
「ガアアッッ!!」
攻撃的に接するようになった。
彼を慕っていた弟達や若い雄達は、ジャックの突然の豹変に驚きつつも、自らも『いつまでもここにはいられない』という思いはあったため、名残惜しそうに何度も振り返りつつも群れを去っていった。
だがそうなると、同じように他の群れから巣立った若い雄が現れ、新たに群れに加わってくる。ジャックの妹達はそういう雄と番い、やはり子を生した。するとジャックは、その幼体達のことも、我が子と同じく大切に守った。
その一方で、追い出されるまでもなく自分から群れを巣立っていく雄も中にはいる。
ジャックと一番仲の良かった弟も、そういう者の一頭だった。以前から群れの仲間とは少し離れたところに一頭で佇んでいることの多かったその雄は、じっと地平線の向こうを眺めていたりした。そんな様子にジャックが、
「ウルルルルルル……」
喉を鳴らしながら近付くものの、
「グルッ……」
『何でもない』とでも言うかのように顔を逸らし、歩いていってしまったりというのを続けた。そしてある日、まるで『近所に買い物に行く』かのような気軽さで群れから去っていってしまった。
「……」
ジャックもその姿から察するものがあったらしく、どこか寂しそうに視線は向けながらも、後を追ったりはしなかった。自分が追い出さなくても自ら去っていってくれるならそれでよかったものの、何とも言えない気分にはなるようだった。
そんな<別れ>もありつつも、元気な幼体達の相手をしていると感傷に浸る暇はない。成体達を率いて狩りに出つつも、帰ってくれば幼体達に土竜狩りの仕方を教えたり、たまに現れるイタチ竜のような危険な存在への対処の仕方をジャックはやはり丁寧に教えていく。
こうしてジャックから丁寧に指導を受けたことで、群れから巣立っていった雄達も、合流した群れで重宝されているようだ。




