第6話 ハイハイ無双
マクベスに魔王城のとある場所とやらへ連れてこられ2カ月ほどが経った。
え?
そんなに長い間どうしてたのかって?
そりゃまずは動けるようになるための、ハイハイの練習に決まってるでしょ。
と言ってもまずはずりばいから練習してたんだけどね。
しかし、この間マクベスのやつ、全然助けに来る気とかも無かったようだ。
まぁ通過儀礼というからには自力で戻ってこい、でなければ死ねということなんだろう。
ていうよりいつまでに戻ってこいともいわれてないので急ぐ気も無かったが、もう死んだと思われてるかもしれん。
まぁそれは良いとして、最近ようやくハイハイが出来るようになったのだ。
トータルではどれくらいやろ?
生後6~7カ月ってところかな?
何しろ時間感覚もかなり曖昧なんで詳しいことは分からない。
そう言えば、捨て子の俺は自分の誕生日とかも知らんわ。
何とか調べられる方法があれば良いんだけど。
それはさておき、ようやく魔法なしである程度自由に移動できるようになったわけだ。
そろそろ行動を開始しようと思う。
なお方針は取り敢えずマクベスの元に戻ることにした。
逃げ出すのもアリっちゃアリなんだけど、やはりもう少し成長してからにしようと思う。
そんなわけで、この洞窟を抜ける必要がある。
もっとも、ここは行き止まりなのでどちらにせよ迷路のような洞窟をどうにかする必要はあるんだけどね。
まぁそれについてもほぼ解決済みだ。
この間、千里眼スキルで洞窟の道をほとんど見てきたので、どう行ったら魔王城へ戻れるのか、もちろん魔王城から脱出する場合の道順も覚えた。
けっこう複雑な作りにはなってたんだけど流石は赤ちゃんの記憶力!
転生前の俺だったらとてもじゃないが覚えきれなかっただろう。
というわけで、道順については良いんだけど、道中の魔物が問題だ。
今のところ完全防御で魔物の攻撃についてはなんとかなるだろう。
後はこちらからの攻撃手段だ。
一応、生きるために必要なため習得した水魔法ウォーターは攻撃にも使えんことは無い。
相手の顔よりデカい水球を作成して、相手の顔面にすっぽり嵌めたらあら不思議。
見事に溺死させることも可能だろう。
しかし、これには危険もある。
相手が死ぬ前にもがいて襲い掛かってくるかもっていうところだ。
もちろん、完全防御で何とでもなるとは思う。
しかし、いくら完全といっても本当に当てにして良いのかというところは心配だ。
というのも、こちらのレベル以上の攻撃が来れば破られることもあるのではないか?ということだ。
マンガやアニメではそういうことも往々にして起こるもの。
一応マクベスの実験では悉く防御できたのでそう滅多なことはないとは思うけども、命を懸けてまで安心しきって良いかと言うと、ここは慎重さも持ち合わせたい。
うーん、どうしたものか。
新しい魔法を作るか。
しかし、ここが洞窟のような場所である以上、火魔法はガス溜まりのような場所があることも想定して却下。
風、土ならとも思うがやはり規模によっては崩落の危険なんかも考える必要があるだろう。
こんな風にしばらくどうしたもんかと考えていた俺だが、急にあることを閃いた!
ていうか、いちいち相手する必要なくね??
マンガやアニメ、ゲームなんかではほぼダンジョンと言えば向かってくる敵をどうにか殲滅して素材やアイテムなんかをゲットしながら進むというのが定石である。
しかし、だ。
そんな必要ないんじゃ?
ってことに気が付いた。
絶対防御の障壁を自身の周囲に展開。
そのまま魔物の攻撃を無視して進む!
これが一番安全ではなかろうか。
え?絶対防御が破られる可能性も考えていたのではって??
もちろん、それも考えて進むが、そもそも俺の防御を貫いてくる攻撃をする魔物がいるなら今の俺では倒すことも無理だろう。
というわけで諸君に作戦を伝えるっ!!
まず自分の周囲に絶対防御を展開っ!
まぁこれは常時発動状態ではあるが、念のため相手の攻撃内容によっては障壁に回す魔力を追加することとする。
そして、魔王城に向かってハイハイで帰還っ!
ここも魔王城の一角ではあるようだが、この洞窟を進んだ先に城門のようなものがあり、いかにもっ!ていう感じの魔王城が聳え立っていることはもう確認済みであるっ!!
なお、道中の魔物は基本的に無視っ!
攻撃を絶対防御で防ぎつつ、目の前の魔物は障壁で吹っ飛ばしつつ進むものとするっ!
以上であるっ!!!
そして俺は行動を開始した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ドドドドドドドドドッ!!!
物凄い量の土煙を上げて、一つの集団が魔王城洞窟部をひた走っている。
「「ブモオオオーーーーーッ!!」」
その音量がさらに別の魔物を呼び、その一団はどんどんその数を増やしていった。
その先頭にいるのは一人の赤ちゃん。
身体強化も発動させ、高速ハイハイを繰り出しつつ魔物を蹴散らしながら進んでいた。
その魔物を引き連れて一路魔王城まで突き進む、赤ちゃんこと俺は考える。
これはえらいことになったな。
既に後ろが怖くて見れんっ!
こうなったら行けるとこまで行くしかないやろっ!!
「「グガアアーーーーーーッ!!ギャギャギャッ!!」」
「ブモオーーーーッ!!」
「うがspyfgpysふぁんfヴyosyごygfyッッ!!!!!」
もはや何の声かも分からない叫びが木霊する。
洞窟部だけに音が反響して余計にえらいことになっているのかもしれない。
魔王城の洞窟部を抜けた先、城門を守るは地獄の騎士グベルグ。
ここ何十年も攻め入られたことなどないこの城を警備するのも大事な役目とは言え、正直に言えば退屈この上ないと思っていた。
そんな彼の耳に異様な音が聞こえ始めた頃、彼は居眠りをこいていた。
そんな彼が魔王城はじまって以来初かもしれない事態を見逃してしまったのも仕方がないことではあったろう。
「グガアアーーーーーーーーッ!!」
彼方から、微かに何かが叫んでいるような声がした。
「「がhcbぴうyぴゅぐfhihjうぷうきゃきゃーーーーーーーッ!!!!」」
それが近づくにつれその音は異様さを増していく。
そして徐々に、大地が揺れ始める。
地震?いや、そうではない。
これは大量の魔物が一点を目指して全力疾走する際に起こる大地の悲鳴だ。
「なっ!」
グベルグはそのあまりの光景に言葉を失う。
彼は城門の鉄扉を慌てて閉じながらも後方の仲間へ危機を伝える為叫ぶ。
「大変だっ!!集団暴走だぁぁぁあぁあああああーーーーーーーっ!!!」
その言葉も言い終わるか終わらないかのうちに、彼を衝撃が襲った。
ドンッ!
「へぐっ!・・・」
何か得体の知れないものにぶつかったような衝撃。
その後すぐ彼の意識は闇に呑まれた。
「んっ?いま何か轢いたか?」
俺は少しの違和感に疑問を感じるもようやく魔王城の城部分に入ったことでさらにテンションが上がっていくのを感じる。
高揚しきった気分の前で今更何かを轢いたなど、些細な問題であった。
それからはまさに地獄絵図だった。
俺がハイハイで駆け抜けてきた後には物凄い量の魔物が続いている。
それも小型から大型、地を駆ける個体から空を翔ける個体まで様々だ。
「敵襲だあぁぁぁぁっ!!」
「ここで何としても食い止めろおおおぉおぉおっ!!」
勇ましくも集団暴走を止めようとする魔族たち。
しかし、その悉くが焼け石に水程度の攻撃しか出来ず蹴散らされていく。
「グルルルアアアーーーーーッ!!」
「ぐほっ!」
ベキッ!!
ドカグチャッ!!!
「うわあああーーーーーっ!!」
「ぐぼおっ!」
「ニコルーーーーーーーッ!!」
「「あkhふあうあtふゅyぎゅふいぽp!!!!!!」」
魔族の指令官が指示を出す声、魔物や魔族の断末魔の声、仲間の名を叫ぶ声(ニコルって・・・)、何かが壊れる音、振動、魔法、血しぶき。
もはや何が何だかわからないくらいの惨状がどんどん広がっていく。
そろそろ引っ込みがつかなくなってきた俺は考える。
コレ、どないしましょ??
当初の目的はマクベスの元まで戻ることであったが・・・
うーん・・・
俺は普通に戻ってきた。
しかし、魔物が勝手に付いてきた。
決して先導してきたわけではない。
これで行くか・・・
というより、もはやこれしかあるまい。
しかし・・・
ここで俺は考える。
マクベスの部屋に辿り着いたとして、それからどうする?
おそらくマクベスもろとも俺も魔物の集団に蹂躙されるだろう。
マクベスが魔法か何かでまとめて片付ける可能性にワンチャン賭けるくらいか・・・
いっそのこと、玉座の間を目指すか?
あくまでマクベスの部屋に戻るつもりが、間違っちゃいました、てへっ
ということで。
そう考えている間にも俺は立ちはだかる魔族の足元をハイハイで駆け抜けている。
魔族たちも近づくにつれ、この集団暴走を先導している(ように見える)一人の赤ん坊に気が付くものの、その赤ん坊よりそのすぐ後を物凄い勢いで突き進む魔物どもの集団の対処が優先だ。
そのため俺は素通りを許されている。
そしてそんな俺が遂に玉座の間の前までやってきたっ!
玉座の間は当然扉が閉じられており、これまで以上に強そうな魔族がその扉の両サイドで戦闘態勢を整えている。
俺は構わず玉座の間の扉に障壁を最大強度にまで強化して突っ込んだ。
ドッガアアアアアアアアーーーーーーーーーーッンーーーー!!!!
「ぐほおっ!!」
扉を守る魔族も今度ばかりは俺に攻撃を仕掛けてきたものの、その攻撃を弾きつつ俺は扉を破壊して玉座の間への侵入を果たしたのだった。
現時点での主人公ステータス
名前:なし
Lv.3
STR:5
VIT:10
INT:1,007
DEX:12
AGI:15
LUK:1
固有スキル:全知全能、魔力無限
パッシブスキル:言語理解、完全防御
アクティブスキル:千里眼、浄化、看破、身体強化(New!)
習得魔法:水魔法Lv1ウォーター
ハイハイ特訓によってレベル微増。それに伴い各種ステータス値も変化あり。
完全防御が常時発動のためパッシブスキル扱いに。
高速ハイハイのため身体強化を全知全能スキルにより習得しました。