第5話 俺、考察する
さてどうしたものか・・・
取り敢えず俺は考える。
というのもようやく寝返りができるようになったばかりの俺だ。
その状態で『通過儀礼』とやらでよくわからん場所に放っていかれたのだ。
しかもこの場所、魔王城のどこからしいが洞窟の行き止まりにしか思えん。
取り敢えず周りの確認からか?
そう思い、周囲を主に千里眼を用いて確認する。
というのも、まだ起き上がれないので自分の目だけでは天井くらいしか見るところがないのだ。
ふむ。
千里眼によって確認できた内容は、結局ここがどこなのかさっぱりということだった。
というのも、洞窟の中をある程度進んでみてもさっきまでいた魔王城の廊下とは似ても似つかない景色ばかりが続いていたのだ。
本当に城の中なのか?
しかも、道も本物の洞窟(といっても実際に洞窟に潜ったことは無いのであしからず)と同じくいくつもの分岐があり、普通に壁で行き止まりになっているところや断崖絶壁になっているところ、地底湖があり先に進めないところやしまいには溶岩があるところもあった。
こんなのどうすればいいんじゃ。
なお、魔物はたくさんいた。
それもファンタジーで定番のスライムやゴブリンではなく、けっこう強そうな個体が多く見えた。
最初はスライムからじゃないんかいっ!!
とまぁいろいろツッコミを入れずにはいられないわけだが、そうしたところで何にもならない。
まずは方針を決めるか・・・
というのも、いま俺にはいくつかの選択肢があると考えている。
いくつかといっても大きく分けるなら二つか・・・
それはマクベスの言う通りマクベスのところまで戻る、のか、はたまた脱出を試みるのか、ということである。
戻れば魔王軍として育てられることになる。
もちろん、後で裏切ることも出来るだろうが、人類の敵となるのだ。
それが後々どんなデメリットを生むのか分からない。
裏切った後に鑑定スキルなんかで元魔王軍ということがバレるようなこともあるかもしれないし、マクベスの元で曲がりなりにも育てられるなら恩義も感じてしまうかもしれない。
いつか裏切ってやろうと思っていたところでそのいつかを迎える前に人類との戦いに参加させられることも考える必要があるだろう。
対して、脱出を試みるのはどうか。
赤ちゃんの身で生きて行けるのか。
今のところ、水魔法で何とかなってはいる。
というのも、以前は水を生成、それも野垂れ死ぬのを防ぐ目的で無我夢中に生成した水だったので辛うじて必要な栄養素を含んだものになっていたようだが、最近では何とかミルクを生成できるようになっている。
これはご都合主義と言われるかもしれないが、ただ思い浮かべるだけではなく、きちんと考察して何とか辿り着いた結果だ。
というのも、そもそも水魔法Lv.1のウォーターというのはどういう成分なのかということだ。
一般的に水といっても水道水や天然水など種類がいろいろある。
その成分もナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウムなど様々な成分で構成されており、ミネラルウォーターなんかだと硬度を基準に『軟水』や『硬水』に分けられていたりもする。
では、水魔法のウォーターとは?
果たしてどういう成分なのだ?
そしてそれが分かったとして、他の成分は加えられないのか?というのも検証した。
結論としては俺にはいろいろな変更を加えることが出来た。
もちろんナトリウムなどの含有量は分からない。
なので、そこにレモンなどの柑橘系の果物の果汁を加えられないかと意識してみたり、単純に塩を混ぜてみたりとかしてみた。
するとどうだ。
確かにそういう味に変化させることができたのだ。
グッジョブ『全知全能』!!
というわけで、いろいろ考察を重ねた結果、牛型の生物の乳に清浄化、均質化、殺菌などの工程を加えるというイメージで作り出すことに成功したわけだ。
これは恐らくの俺の仮説だが、この魔法はこの世界のどこかにある類似する材料を瞬間移動のような方法で俺の手元まで手繰り寄せて実行されているのだと考えている。
なのでこの世界に存在しないものは恐らく作り出せない。
例えばもしこの世界にオレンジが存在しないのだとすれば、オレンジジュースは作り出せないことになる。
検証してみた結果のレモンや塩、何らかの動物の乳は存在していたというわけだ。
そう仮定するならば、緑茶や紅茶なんかのお茶系は何とかなるような気がする。
コーヒーも豆がどこかにあれば何とかなるか?
この世界にないものが仮にあったとして、どうにかそれを再現させるのもいずれは試してみたい。
さて、話が横道に逸れたが今はこれからどうするかの話だ。
というわけで当面生きていくのに必要な食料はなんとかなるが、一番は住居が問題か。
これまではマクベスの部屋の良く分からん魔物の死体ベッドであったが、雨風は無かったし、その他外敵も心配する必要はなかった。
なんやかんやで恵まれていたというべきだろうか?
いや、それもないか。
何も王族や貴族とは言わん迄も、多少貧しくとも普通の家庭に産まれていればもっとマシな環境であったのは想像に難くない。
しかし人間不思議なもので、環境に馴染めばそこもまた居心地の良いところとなるのだ。
住めば都とはよく言ったものだ。
でも死体の上は何とかならんかとは思うけどね。
しばらく帰るか逃げるかを考えていた俺であったが、まずは移動できるようにトレーニングをすることにした。
何しろまだ寝返りしか出来ん。
ハイハイとは言わん。せめてずりばいは出来るようにならんとどうしようもないだろう。
幸いと言ってよいのか、マクベスもいつまでに帰ってこいとの言わんかった。
ていうか、どうせ今まで放置されてたんやし帰る必要なくね?
ここに生活拠点を気付いて生きていくのもアリかもしれん・・・
そんなことを考えながらも俺はトレーニングを開始するのだった。