第4話 通過儀礼
魔王城、マクベスの部屋。
魔王との謁見後、俺が連れてこられたのは案の定コイツの部屋だった。
いろいろヤバそうな物体だらけなので正直嫌なんだけどな。
さらに最悪なことに、マクベスの奴、俺をなんかよく分からん魔物のようなものの死体の背中に置きやがったっ!
ベビーベッド代わりは魔物の死体でしたとかどんな冗談じゃ。
さて、愚痴は良いとしてそれからの生活は正直退屈だった。
なぜなら、基本放置だからだ。
コイツら確か俺を魔王軍として育てるとか言っとったくせに放置とはなんぞやっ!!
もしかしてコレはアレか?
放置すればするほどレベルが上がる系のゲームと同じってことか??
念のため俺は自分自身のステータスを確認する。
(看破っ!!)
看破は相手が放った攻撃なんかを見破る際にも使うものだが、こうしてステータスを見るのにも使えるスキルだ。
目の前に文字が浮かびあがる。
なお、これは他人には見えていないようでマクベスの目の前でやってみても何も見えていないようだった。
さて、肝心のステータスはというと、
名前:なし
Lv.1
STR:1
VIT:5
INT:980
DEX:5
AGI:5
LUK:1
(スキル非表示)
と、こんな感じだ。
なおこれはこの部屋に連れてこられてすぐ確認したときと何も変わっていない。
まぁいろいろツッコミどころは満載なんだけど、それは良いっ!!
名前いい加減に決めろやとか、何このINT?とか、それはまぁ置いておこう。
魔物に名前を決められるのも敵わんしな。
しかし、だ。
問題はコイツ等ほんまに俺を育てる気があるんかっちゅうこっちゃ。
放置しているのがステータスを鍛えることが目的でないのなら、ここへ連れてこられて数カ月、完全放置とはどういう了見じゃ。
完全放置とはそのままの意味で食事や着替えの世話なんかも一切して貰えない。
普通の赤ちゃんだったら死ぬよね?
まぁ魔族や魔物にとっちゃあこの世に生を受けた以上、自活が当たり前なのかもしれないが・・・
ということで俺は自ら生成した水分と、浄化の魔法で何とか生きながらえてきたわけである。
もちろんその間、千里眼で魔王城のあちこちを見て回ったり、マクベスが部屋で何かしてる時のブツブツ喋ってる独り言も暇つぶしにはなったけどね?
あとは年相応に体を動かす練習もしてはいる。
そして最近ようやく寝返りが出来るようになったんだっ!
誰か褒めてくれっ!!
最初寝返りから元に戻るのも苦労した(ていうか無理だったんで魔法で身体を動かしたのは秘密)が、今では思いのままだ。
後はハイハイでも出来れば死体ベッドから解放されるな。
俺がそんな風に考えていた時の事だった。
どうせ今日も放置されるんだろうと思っていた俺の元に、マクベスはやってきた。
「さて、あれからだいぶ月日は流れたがお主、ほんに人間の赤子と変わらぬのう・・・」
恐らくワシらの言葉も理解しとるはずじゃからもっと成長も早いと思っておったんじゃがな、
と付け加えてなおもマクベスの話は続く。
その前に一つ!
普通の人間の赤子はずっと放置されてたらすぐ死んじゃってたと思いますっ!!
「さて、お主も何とか身体を動かせるようになってきとるようじゃし、ここいらで我ら魔族流の通過儀礼を受けて貰おうと考えておる。」
え?ナニソレ??
「なぁに簡単じゃ。今からお主をこの城のとある場所へ連れて行く。そこからこの部屋へ自力で戻ってくるのじゃ。」
えーとこのおっさん、いや爺さんか。
いったい何をぬかしとるんじゃ。
俺が睨んでいると、
「まぁそんな顔をするでない。我ら魔族や魔物の中には生後まもなく我が子を谷に突き落とし、戻って来れた奴だけを育てるという風習があるのじゃ。」
ライオンかっ!
心の中で突っ込んでいるとさらに聞き捨てならない一言が。
まぁ、魔族や魔物全てってわけではないんじゃがの。
正しくは魔族や魔物の一部は、って言った方が良いかの?
それなら俺がそんなことせんでも良いんじゃ??
「それにお主はすでに魔法も扱えるであろう。」
ここへ来たとき既に障壁を貼っていたしな、
まぁ魔族や魔物からしたら生まれてすぐ魔法が使えるなぞ当たり前の事なんじゃが・・・
とマクベスはブツブツ独り言も交えながら言う。
俺がさらに心の中で突っ込みを入れようとしていたところ、突然俺とマクベスの足元に魔法陣が展開される。
「『マス・テレポートっ!』」
マクベスが何やら魔法名を発したと思えば、俺たちは良く分からない洞窟の最奥のような場所に転移していた。
「ふむ。成功じゃな。」
え?失敗覚悟の魔法だったの?
「いや、お主は魔法に対する抵抗力が相当高いからの。ワシ一人だけ移動してお主を連れてこれないかもという不安もあったのじゃよ。」
ふぉっふぉっふぉ、とマクベスは笑う。
コイツ、基本放置しとったし最初さんざん殺す気の攻撃を実験でかましてきたくせに急に良いお爺ちゃん風に笑っても遅せえんだよっ!!
あー、いや。
笑い声だけ聞いたらそんな風にも思えるくらいではあったんだけど、間違ってもそれは無いか。
コイツが良い爺さんな訳ないし、それを演じてるわけでも無い。
なぜならコイツは俺をここに置き去りにしようとしている!
「さて、それではここから帰ってくるがよい。無事に生きて帰れるようならお主を魔王軍幹部として教育してやろうぞ。」
俺がコイツが良い爺さんかどうかとか考えている間にマクベスはそんな言葉を発してもう帰っていこうとしている。
え?なぜ分かったかって??
そりゃ帰るためのものであろう魔法陣がマクベスの足元にだけ展開されてるからだよっ!!
「あー、一つ言い忘れておった。ここは魔王城。もちろん、魔王様配下の魔物もおる。奴らはお主を見つけたら殺そうとしてくるじゃろう。それ故お主も気にせず魔物を殺して良い。魔王様の配下だからといって遠慮する必要はないからの。」
どうせ勝手にリポップするでな・・・
その言葉を最後にマクベスの姿は虚空へと掻き消えた。
その場に漂った魔力の残照だけがキラキラと綺麗だった。
現時点での主人公ステータス
名前:なし
Lv.1
STR:1
VIT:5
INT:980
DEX:5
AGI:5
LUK:1
固有スキル:全知全能、魔力無限
パッシブスキル:言語理解
習得スキル:千里眼、浄化、看破、完全防御(常時発動)
習得魔法:水魔法Lv1ウォーター