第3話 魔王城にて
悪魔に攫われ連れてこられたのは如何にもという景観の魔王城だった。
どうやらあの街は魔王軍に侵略されていたらしい。
これらの情報は道中の悪魔たちの会話から判明したことである。
さて、そんな俺は魔王城の一室、何冊もの分厚い本やポーションか何かが入ったような小瓶、訳の分からない魔物か動物か分からない生き物の死骸が散乱している怪しい部屋に連れてこられた。
もう今すぐに逃げ出したいところであったが、下手に行動して余計に悪い展開になることを恐れた俺はその場から動けずにいた。
「なんじゃ、その人間の赤子は?」
「マクベス卿よ。すまぬがコイツを調べて貰えぬか?」
「調べろとな?わしゃ魔王様から命じられた仕事で忙しいんじゃがな。」
マクベスと呼ばれたのはかなり年齢のいってそうな魔族だ。
怪しげなローブを身にまとっていることから魔法使いタイプかな。
「魔王様にはザイルの奴が報告にいっている。」
「そうか。それで調べろとは、具体的にどういうことかね?」
「このガキには我らがどんな攻撃をしても通じんのだ。」
「ほう・・・」
マクベスは目を一瞬驚きで見開いたかと思うと、今度は細めながら呟く。
「どれ。」
そう言うとマクベスの持つ杖が黒く輝き、その先端に魔法陣が展開する。
「彼の者に死を与えよ。『デス』」
まさかの即死魔法が俺を襲う。
やばっ!
魔力障壁っ!!
見るのも悍ましい真っ黒な波動が俺に到達する直前、障壁が展開する。
黒の波動は障壁に当たると霧散していった。
「なるほどの。」
「何か分かったのか?」
「こやつ、魔力障壁を貼っておるな。」
「なんだとっ!?こんなガキにそんな芸当が出来るというのか?」
「確かに見たところ、人間どもの成長からするとまだ生後間もない赤子のようじゃ。自らの意志で防いでいるとも思えぬが・・・」
「しかも我らの魔法は人間どもの比ではないのだぞ?」
「うーむ・・・しかし、さきのは紛れもなく魔力障壁じゃった。」
「それに魔力障壁というなら槍が砕けたことや我らの拳さえ届かなかったことはどう説明するのだ?」
「それは真か?」
「うむ。」
「・・・・・。」
マクベスは顎に手を当てて考えている。
「こやつを暫く預けては貰えんか?調べてみよう。」
「良かろう。」
なんか勝手に俺の身の処遇が決められてます!
良かろうじゃねぇ!
逃げようと思えば何とかなったのかも知れない(もちろん普通の赤ちゃんには無理ですので悪しからず)が、気の小さい俺は何も行動に移すことは出来ないのだった。
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それから俺はマクベスによりいろいろな実験をされた。
様々な魔法による攻撃。これには精神干渉系やステータス異常を起こさせるものも含まれていた。
そしてどこからか呼び出された凶悪な魔物による物理攻撃。
中には小型の竜種のような奴からのブレス攻撃もあった。
こいつら、ほんまにひどいやっちゃで。
赤ちゃんにする仕打ちではない。
しかし、そのどれもが俺の障壁を突破するものではなかった。
その途中、あまりにもいろいろな攻撃を受けたせいか、
『スキル物理障壁および魔法障壁が完全防御に進化しました。』
というアナウンスが流れた。
そして、
『スキル完全防御が常時発動に設定されました。』
ということで、何やら知らぬ間にいろいろとグレードアップされていった。
これで安心して眠れる、か?
というのもここへ連れてこられてから寝る間もないくらい障壁を貼り続けなければならなかったのだ。
赤ちゃんには辛いことこの上なかった。
もう限界を迎えていた俺はまだマクベスによる攻撃が続いていたが、無視して眠ることにした。
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なんじゃこやつは・・・
こんなことがあり得るのか?
物理攻撃に魔法攻撃。
交互に繰り出そうとも同時にしようとも、その悉くをこの赤子は防ぎおった。
ワシでもこんな攻撃を繰り返されたら障壁を破られダメージを負うくらいじゃというに・・・
そこでワシは一つの結論に辿り着く。
こやつ、間違いなく神々の祝福を受けてこの世に遣わされたな。
人間どもの中にはある一定の間隔で神々の祝福を受けた『勇者』と呼ばれる存在が誕生する。
そしてその『勇者』は例にもれず魔王様を討伐しに我らの城へ攻め込んでくる。
結果はその時々だ。
過去には魔王様が討伐されてしまうこともあったし、逆に勇者を亡き者に出来たこともあった。
しかし、歴代の勇者をもってしてもこれほどの防御力を誇っていたことがあったであろうか。
しかもこやつはまだ赤子じゃというに・・・
ワシはこやつを『勇者』と仮定し、逆に魔王軍に取り込むことを魔王様へ進言することにした。
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数刻後、魔王城玉座の間にて。
「なるほど。ではお前はこの赤子が勇者だというのだな?」
「はい。そうとしか、考えられませぬ。」
「ふむ。」
魔王ゲルムツベルグは目を閉じ考える。
勇者だと言うなら万一寝返ったことも考えるならここで殺してしまった方が安心だ。
しかし、マクベスの言う通り逆に我らの手先とできるなら、人間どもの世界を完全に掌握することも可能。
こやつを殺しても恐らく神々はまた次の勇者を送り込んでくるのだろう。
それならまだ赤子のこやつを魔王軍として、人間に敵対するものとして育て上げればそれに越したことは無いのではないか。
「ではマクベスよ。こやつの世話はお前に任せる。」
「御意。」
こうして俺は魔王軍に育てられることになった。